エピソード13 『イエスの子らよ』
修道院の暮らしっていうものが、大体つかめてきたわ。
マナーにはとてもうるさいけれど、あんがい自由なの。
やることはいっぱいあるけど、何するかはだいたい、自分で決められる。
成人棟の人たちは、もうちょっと制約があるんでしょうけど、
幼年棟の私たちは、かなり自由なの。
私もエルサも飽きっぽいから、毎日いろんなことやるわ。
すると自然と、いろんなことができるようになっていくのよ。
苦手だったお裁縫も、ボタン付けくらいはすぐ出来るようになったしね。
でも、自由に動いていいのは、あくまで修道院の中だけ。
教会の門番は、外からの侵入者を見張ってるだけじゃなくて、
脱走しようとする修道女たちのことも、見張ってるわ。
外に出ることは許されないの。
里帰りもできないし、ちょっと海にレジャーに行くなんていうのも、できないの。
1年に1度も、レジャーできないの!?それじゃちっ息しちゃうわ!
私は、誰かの大きな修道服を干しながら、エルサに言った。
「ひょっとして、
修道女って、世界一不幸なんじゃないの!?」
「そんなことないわよ。
世界一幸せかどうかは定かじゃないけど、世界一安全じゃない?
それだけでも、喜ぶべきだとおもうけど?」
「世界一安全?ここが?」
「そうよ。女の園だもの。
修道院の中にいれば、男に殴られることはないのよ。
男にだまされることもないわ。
男に押し倒されることもないのよ。下着も盗まれないし。
こんなに安全な場所って、あるかしら?」
「…なるほど。
でも、女の人にいじめられるかも?あのノッポのシスターとか。」
「そうよ。だから、女同士でうまくやる練習をしてるのよ。私たち。
それも修道院で学ぶことの1つらしいわ。
別に、みんなと遊べってことじゃないのよ。ケンカしないことが大事。
ルール守ることも大事だし、ガマンすることも大事。優しくすることも大事。」
「息がつまっちゃう!」
「そうよ?だから、ネコかぶらないことも大事ってワケ。
だからアタシ、あなたにはホンネなのよ。」
「そこまで考えてたの!?」
「なんとなくね。
なんとなく、ネコかぶらなくていい相手を嗅ぎわけるわ。
それはそうと、
あのノッポのシスターだって、あなたをいじめてるわけじゃないのよ?
あなたがルール破るから、注意するだけよ。立場的に。」
「そうよね…」
「知ってる?怒るほうもツラいのよ?」
「そうなの!?」
「そうよ。だって嫌われちゃうもの。
あなた、あのノッポのシスター嫌ったでしょ?
シスターはただ、あなたのために、みんなのために、
ルール破る人を注意しただけよ。
悪いのはルール破ったほうなのに、
注意したほうが嫌われちゃう。そんなのってかわいそうだわ。ヒサンよ。」
「そうね…。」
「そういうことなのよ。
誰かがルール破ってるうちは、誰かが『怒り役』っていう貧乏クジ引かなきゃだし、
誰かがルール破ってるうちは、みんなで仲良くはできないの。
いくら女の園でも、平和では暮らせないってこと。
でも、幼年棟の子たちがルール違反することなんて、
シスターたちは折り込み済みだわ。
子供だもの。さわぎたいし、テーブルマナーもうっとおしいわ。
でも、成人棟に移るころには、自然とおしゃべりも飽きてるし、
ガチャガチャ食べるのはカッコ悪いなって、感じるようになってるのよね。
そういうもんらしいわ。人間って。」
「ねぇエルサ。
私、ノッポのシスターに謝りに行きたいわ。
『シスターのこと嫌ってごめんなさい』って。
どこにいるか知らないから、一緒についてきてくれる?」
「あはははは!
夜中にまた音楽室に行けば、シスターに会えるわよ!」
「もう、ひどいわ!ホンキで反省してるのに!」
『イエスの子らよ』


