エピソード14 『イエスの子らよ』
私はときどき、
シスター・サラの姿を探したわ。
どうしても気になっちゃうの。チョコレート色の髪の彼女のこと。
でも、どこにもいないの。
ご飯を食べたと思ったら、すぐどこかに消えちゃうのよ。
彼女も人と群れるのがキライなのかしら。
それと、もう1つ人探しをするわ。
これはゲームみたいなもんでね、楽しいの。
あの穀物倉庫で出会ったおばあ様、彼女を探すの!
彼女はいつも、みんながいないような場所にいるのよ。
でもいつも同じ場所ってわけじゃないの。毎日ちがうの。
トイレ掃除してたり、鐘楼のからくり部屋のすす払いしてたり、するの。
おばあ様探しを楽しんでるおかげで、修道院の地理にもだいぶくわしくなったわ。
ある日の昼下がり、またおばあ様探しゲームをはじめたわ。
「おばあ様、今日はどこかしらね?」
午前中にも探したけど、トイレにもからくり部屋にも、いなかったのよね。
みんなが行きそうにない場所って、あとはどこかしら?
「わかった!図書室は!?」私ってば鋭いわ。
「図書室なんて、みんな行くじゃない。
毎日じゃなくたって、しょっちゅう行くわよ、みんな。」
「でもそれは、夕食後のことでしょ?
昼間の時間に図書室に行く人なんて、そうはいないんじゃない?」
「たしかに。マリアンヌあなた、鋭いわ。」
大正解!
今日はおばあ様、図書室で本のほこり払いをしてたわ。
それだけじゃないの!
シスター・サラまで、図書室にいたのよ!
彼女は中央テーブルに腰かけて、静かに読書をしていたわ。
気になるシスター・サラを横目でながめつつ、
私たちは、おばあ様のもとへ行ったわ。
「おばあ様、見ーぃつけた!」
私は子供っぽい笑顔で、でもひそひそ声であいさつした。
「おやおや、見つかってしもたか。
手伝うか?ハタキを持ってきなさい。
遊んどるだけだと、怒られるぞ。」
私たちはハタキを持ってきて、ふりふりしながらおしゃべりをした。
おばあ様は、今日もヘンなことを言うのよ。
「それにしても、額がうずくな。
おぬしらが来てから、いっそううずく。
何じゃろな、いったい。」
「何なのそれ?病気なの?おばあ様。」私、心配しちゃった。
「いや、天使様が何かを知らせたがっておるな。
オーラの大きい者がおる。」
「それ、アタシのことでしょ?金の柱立ってんのよ、今日も。」
「おぬしも強いがな。それとは別じゃろう。」
「ひょっとして…
シスター・サラじゃない!?」私は、彼女をこっそり指差して言った。
「う…!どうやらそうらしいな。
サラというのか?彼女は。」
「そうよ。まだお友達じゃないから、それ以外のことは知らないけど。」
「う…!」おばあ様は、めまいを起こしてくずれ落ちそうになったわ。
「大丈夫!?」
「あやつ…
マグダラのマリアの、子孫では!?」
「え!?おばあ様、何か視えるの!?」エルサが言ったわ。
「視える…!途方もない遺伝のフラクタルが…!」
「マグダラのマリアって、
イエス様のお気に入りだったお弟子さんでしょ?
誰と結婚したのかしら?マグダラのマリアは。聖書には書かれてなかったとおもうけど。」
エルサは聖書のお勉強も進んでるのね。
それより、おばあ様は、驚くべきことを言ったわ!!
「交わったのは…
…イエス様じゃ!!本当か?これは!」
「イエス様は結婚してないわ?」それは私でも知ってることよ。
「結婚はしていない。
しかし、マグダラとイエス様は、子を残したらしい…!
『マグダラに娘がいた』という伝承は、たしかに、あるんじゃ。
その娘の名前が…サラ。たしか、そうじゃった!」
おばあ様は、吸い込まれるようによたよたと、
シスター・サラに近寄っていったわ。
「おぬし…
まことに…イエス様の血を引きし者なのか…!?」
「……………。」
シスター・サラは、ゆっくりと本を閉じ、目を閉じた。
「……………。」
ひとつ大きな呼吸をすると、彼女は、ついに重たい口を開いた。
『イエスの子らよ』


