エピソード14 『トランク1つで生きていく』
「万屋」での私の仕事は、掃除だけで良かった。接客は含まれていなかった。
けれど、お客さんからすれば誰が掃除要員で誰が接客要員かは、わからない。
なので、私に声をかけてくる人も大勢いた。
それが日本人ならまだ良いのだけれど、京都は一大観光名所。外国人客も多い。
外国人と会話したことの少ない私にとって、外国人に話しかけられるとビビる。
相変わらず、英会話という英会話はこなせないのだけれど、
この仕事のおかげで、とにかく外国人に話しかけられることには、免疫がついた。
コウセイくんの言う「リスクマネージメント」を、私も考えることにした。
求人誌をもらってきて、バイトを探した。
居酒屋も悪くないと思ったけれど、
四六時中コウセイくんと居るのも、ちょっと気まずい。
ツブシの利く仕事ってほかに何かな?と考えて、スーパーを思い当たった。
駅前に大きなスーパーがある。何かしらあてがってもらえそう。
求人誌には「短期OK」と書かれていたから行ったのだけれど、
それはどうも、クレジットカードの勧誘員だけだった。
それだとあまりツブシは利きそうにない。
私はちょっと考えて、別に長期でもいいかなと、思い直した。
半年くらいはこの町に居てもいいかもしれない。
新しい仕事を始めるのは、とてもおっくうに感じる。
…もとの私は、そういうふうに感じる人間だった。
だから不動産の経理も、2年もずっと続けていた。
でもなぜか、スーパーの研修をそんなに苦痛に感じなかった。
これはたぶん、愛子さんの言う「のり付け」がされていないからだと思った。
震災のあとから、私の腰は常に浮き続けていて、とても軽い。
テンションは常に少し高めで、
だから、未知なることへの挑戦に、あまり不安やおっくうさを感じない。
なるほどな、と思った。愛子さんの言うとおりだ。
私は、午前中に掃除をし、昼間は軽く観光に出かけるかライターの記事を書き、
夜はスーパーのバイトに出た。夜中にはまた、ライターの記事を書く。
だいたいそんな生活スタイルを続けた。
コウセイくんはときどき、私を京都の観光に誘った。
おかげで私は、京都の観光地にとても詳しくなった。
詳しいとは言えないけれど、ずいぶんたくさんの名所を制覇した。
有名なところはもちろん、小さな庭寺にもたくさん行った。
カメラ散策の好きな私にとって、これはとても面白い日々だった。
毎日毎日、観光三昧。でも一日1箇所。だから焦らなくていい。
私の京都旅行は、3泊4日で終わったりはしない。焦らなくていい。
なんてぜいたくな日々だろう、と思った。
京都旅行は日本国民の憧れで、世界中の憧れだ。
私はそれを、日がなのんびり楽しんでいる。
『トランク1つで生きていく』



