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エピソード15

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年2月1日
  • 読了時間: 3分

僕が乗った寝台車両には、

エジプト人顔の、二十歳くらいの青年が乗り合わせた。

とてもキレイな瞳をしていた。

最初のうちは、

特に声も掛けず、各々、好き勝手に座っていた。

やがて、

乗務員から夕飯のお弁当が支給されて、

それを食べようとするときに、転機は訪れた…!!


彼は、お弁当を食べる前に、

1分間ほど熱心に、

手を合わせて、黙祷をし始めた!

ヤンチャな時分の二十歳くらいの青年が、

信神深いというのは、珍しい!

僕は、彼に、

「何の神に、祈ってるんだい?」と、英語で尋ねた。

彼は、仏のような笑みで10秒ほど僕を見つめてから、こう答えた。


「ゴッドに祈ってるんじゃない。

 フードに感謝しているんだ♪」


おぉ!コイツはハナシが合いそうだ♪

僕は、意気揚々と会話を進めた。

「エジプト人はフツウ、ムスリム(イスラム教徒)じゃないかい?」

「だって僕、エジプト人じゃナイもの!」

彼は、イタズラっぽく笑った。

「えー!?

 キミ、エジプト人にしか見えないよ!!」

「僕は、アメリカ人だよ♪」

そう言うと、パスポートのIDページを見せてくれた。

「『エジプト系のアメリカ人』というヤツさ。

 アメリカに住んでて、

 今、エジプトに旅行に来ているんだ。

 …ところでキミ、ギターを持ってたね?」

彼は、話題を変えてきた。

「うん♪僕は、ギターを背負って旅して、

 あちこちでネイティブたちと歌うのが、スキなんだ♪」

「ワンダホー!!

 ホントかい!?

 何か、CDとか持ってナイの?」

「CDは持ち歩いてナイけど、

 MP3プレイヤーの中に、幾つも音源が入ってるよ♪」

「聴かせてもらうこと、出来る!?」

「シュア!」

僕は、彼に白いイヤホンを手渡し、

テキトーに自分の曲を流してみた。

彼は、じーっと、2分くらい曲に没頭し、

「次の曲!次の曲!」と、ジェスチャーで促した。

そうして、4曲ほど、真剣に耳を傾けてくれていた。


彼は、いつもの仏の笑みに戻ってイヤホンを外すと、

「ワンダホー!!

 キミはメロディも声も、素晴らしいよ!!

 プロフェッショナルなのかい?

 詞は、…僕は日本語は解らないけど…、

 多分、メッセージソングの類なんだろうなぁ。」

彼は、よく肥えた「耳」をしていた!

全く解らない言語の歌から詞の内容を読み取るには、

ボーカルの微妙な節回しのニュアンスから推測するしか、ナイ。

コレが出来る繊細な「耳」を持ってるヒトは、

そうは居ないだろうなぁ!

「僕は、プロではナイよ♪

 …それに近いポジションに居たコトも、あるにはあるけど、

 プロになって、テレビの中で歌ってるより、

 自由な身分のままで、

 遺跡の中とか、山の上とか、広場とかで歌ってるほうが、

 楽しいって感じるのさ♪」

「ワンダホー!!

 キミは、リアル・プロフェッショナルだ!!

 『本当の意味での、プロ』だよ!!

 …実は、僕も音楽をやってるんだけど…

 聴いてみてもらえないかなぁ?」

今度は彼がMP3プレイヤーをスタンバイして、

僕にイヤホンを渡してくれた。


僕も、熱心に耳を傾けた。

彼の音源は、シンプルな「ボイス録音」だった。

ギター弾き語りがメインで、

「歌詞を歌う」というよりは、ハミングが中心だった。

時々、エスニックな打楽器を、独創的に混ぜ込んでいた。

ハーモニカを吹いたりもしていた。

音源としては、つたないモノだったけれど、

彼がやろうとしているニュアンスは、よく解った。

「オーガニック・サウンドに、行きたいのかな?」

「イェスイェス!

 ザッツライト!!」

「へぇー!!面白いよ♪

 ボイス録音一発録りで、

 一人でココまでやっちゃうヒトは、そうそう居ないなぁ!」

「褒めてくれて、ありがとう♪」


僕らには、共通点がずいぶんと有った。

ギター系の弾き語りであり、打楽器の経験者でもあった。

オーガニックやエスニックな音が、スキだった。

優しい響きの声で、歌いたがった。

…コレで意気投合しないワケがナイ(笑)



『導かれし者たち』

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