エピソード15 『「おとぎの国」の歩き方』
夜が明けて、朝露が乾いたころ、
婆ちゃんはまた、朝ごはんを持ってきてくれた。
「よく眠れたか?おっほほ!」
「まぁまぁね。」僕は、伸びをしながら答えた。
「おっほほ!これでおぬしも、寝る場所には困らんな!
ダライラマ様に感謝せぇ?」
「え、どういうこと?」
「野宿に免疫がついたじゃろ?
野宿ちゅう選択肢があることを、おぬしは、知った。
そういう人間は、村がなかろうとベッドの床が抜けていようと、
悲しんだりはせん。困ったりもせん。仏の心でいられるなぁ。」
「あ!」
「『自分の龍を育てなさい。人は経験を積んで強くなる。』
ブータンの古い格言じゃ。おっほほ!」
「知ってる!それ知ってる!」
「知っとるか!パゥオじゃの。おっほほ!」
「その格言、ダライラマが言ったの?ダライラマ1世とか?」
「誰が言い遺したんじゃろなぁ?
ダライラマ様ではないじゃろう。もっと古い言葉だと思われる。
ダライラマ様はまだ、悟りに至ってはおらん。
ゲルク派の熱心な伝道師ではあるし、それを誠意盛んに行っておられるが、
しかし仏陀(悟った者)には至っておらん。
ダライラマ様が本当に仏教を…仏陀の教えを理解したなら、
おのれもまた、青年時代のゴータマ・シッダールタのように、
王という地位を捨ててでも、出家修行に繰り出すはずなのよ。
真の悟りは、その先にしか無い。
ダライラマ様はまだ、その旅をしてはいない。まだ道半ばなのよ。」
「ふーん。
婆ちゃんは?婆ちゃんは旅してきたの?」
「わしは旅してきたよ。マカオからなぁ。じゃから英語もしゃべれる。」
「ひょっとして婆ちゃん、ダライラマより凄いんじゃないの!?
ダライラマ『様』とか呼ばなくていいんじゃないの?
奉ったり守ったり、しなくていいんじゃないの?」
「おっほほ!そんなのは知らん。
自分が誰の上にいるか、誰の下にいるか、
そんなことは考えんよ。気にせん。
わしはあくまで、自分の仕事をするまでよ。」
ご飯を食べ終えると、僕は思い出したように言った。
「あのさ、婆ちゃん?
僕、アジナに行きたいんだけどさ?
バスとか通ってんのかな?」
「バスか?今はどうじゃろなぁ。通ったり通らなかったりする。」
「どれくらい遠いの?歩いて行けるの?」
「歩いて行けなくもない。」
「そうか。絶望的でもないね。」
「わしが、先導してやろうか?」
「婆ちゃんが?いいの?」
「かまわん。
もう出発するか?」
『「おとぎの国」の歩き方』


