エピソード18 『トランク1つで生きていく』
変な話を振られたり、変なことを頼まれると、「は?」と思うけれど、
何気にこれが、面白い。
熊本の暮らしでは、会話する人はいつも限られていて、
会話する内容もほとんど同じで限られていた。日々に刺激がなかった。
それが、熊本を出てきてからというもの、
ほとんど毎日新しい誰かと会話をし、新しい話を耳にする。
これは何か、小学2年生くらいのときに閉じてしまった心のつぼみみたいなものを、
優しく柔らかく、刺激してくる。
そのたびに、そのつぼみは、虹色に色めく。
孵化を待つ卵のようなものが、私の中にあるのだ。
私はスーパーに行って、ミートソースの材料を手に取った。それとサラダ野菜。
こんなもんで良いんだろうか?かといって、あまり背伸びして失敗しても、迷惑かけてしまう。
私は足早に「まりりん」に戻り、調理にとりかかった。
何だか、妙なことを押し付けられている気もするが、
人のために料理をするのというは、心地よくもある。
…押しつけられてはいないのだ。彼は私に、強要はしていない。
彼の提案に対して、私は自分の意思で、「YES」と答えた。
熊本の実家で、親に夕飯の支度を押し付けられるときのそれとは、
感じ方がずいぶん違っていた。
どちらかといえば、彼氏に料理をもてなしたときの感覚に似ていた。
なんだかワクワクして、そして優しいキモチになるのだ。
粗末なミートソースだったけれど、彼はとても喜んでくれた。
その笑顔を見て、私はまた、嬉しくなってしまうのだった。
不思議な感覚だ。何やっているんだ?私は。
そして食事を共にすると、会話ははずむ。
彼は、名前をタカユキさんといった。年は聞いていないけれど、30は超えてると思う。
タカユキさんは、あまり自分の話をしなかった。
それよりも、私に質問ばかり投げかけてきた。
話の大半は、震災の日からの私のトランク・ライフについてだ。
ノマドライフと言ったほうが良いのか?でもノマドというのはピンとこないので、
私にとってはトランク・ライフだ。
私は、どんどん自分のことを話した。
なぜか、どんどん話してしまうのだ。そして、そこに心地よさを感じてしまう。
彼はどうも、とても聞き上手なのだ。
彼はよく、「それで、そのときどう思ったの?」と聞いてくる。
私はそれに答える。すると私は、「あ、そう思ってたんだ!」と、
自分で自分にビックリする。
私たちは22時頃まで話をして、そして解散した。
『トランク1つで生きていく』



