エピソード2 『トランク1つで生きていく』
家族から5分遅れて、私は家を後にする。
カギはしっかり掛けた。家族には迷惑をかけないようにせねばね。
夜道が暗い!そうか、停電しているんだ。
懐中電灯を取りに戻ろうかとも考えたけれど、
スマホに簡易ライト機能があることを思い出して、進むことにした。
まずは大通りを目指して歩く。なるべく車通りの多いところへ。
県道までくると、ポツポツと明りがある。なんで?
近寄ってよく見ると、小さなソーラーパネルが備えつけてある。便利な時代になったね。
私はその下に陣取って、クロッキーノートを取り出す。
「山口方面」マジックで大きく描く。ヒッチハイク、してみようかと思って。
外灯の下なら、車のドライバーからも見えるだろう。そうであってほしい。
車が通りかかるたびに、私はノートを派手に振って、猛アピールを続けた。
ものの5分。1台の車が停まってくれた。
大きなファミリーカーだから、私の乗るスペースも残っていそうだ。
運転手の男性は窓を開けて、私に言った。
「君、何してんの!」
「県外に出ようと思って。乗せていってくれませんか?途中まででも…」
「何言ってんの!俺らこれから避難所向かうんだよ!
君も避難所に行きなさい!乗せていってあげるから。」
「い、いえ。いいんです。ごめんなさい!」私は後ずさりしながら言った。
「何考えてるんだ!正気じゃないのか!?」
「いや。正気なんです。とにかく県外に出たくて…」
「旅行とかしてる場合じゃないんだよ!君、酒でも飲んだのか?
ついさっき、バカでかい地震があったんだ!」
「知ってます!」
「だったら…」
「あなた!」助手席の奥さんが、男性の剣幕を止めてくれた。
「彼女にも何か考えがあるのよ。けんかしてもしょうがないでしょう。」
「そうだが…。」
「お嬢さん。ヒッチハイクはいいけれど、フードで髪を隠したほうが良いわ。」
「え?」私はパーカーのフードに手を触れた。
「女の子だってことが、極力わからないようにね。
女の子だってわかったら、運ぶ気もない男があなたを連れ込むかもしれないから。」
「あ…!」
「生き延びるためのヒッチハイクでしょう?慎重にやらないと。」
「ありがとうございます!」私はフードをかぶりつつ、大きくお辞儀をした。
車は行ってしまった。
後部座席の子供たちは、不安そうに私のことを見つめていた。
車が見えなくなって、私は我に返った。
襲われる危険があるんだ!
私は急に、怖くなってしまった。
心臓が締め付けられるように苦しい。寒気がする。
どうしよう?やめたほうが良いのか?襲われるなんてたまったもんじゃない。
ためらっているうちに、
幸か不幸か、新たな車が徐行しながら近づいてくる。
ど、ど、ど、どうしよう…!
白い安っぽいミニバンだ。無骨なおじさんとかが乗っていそうだ…まずい…
私は思わず、スケッチブックを力なく下ろしたり上げたり、オドオドした。
それを見て、運転手はなおのこと、車を私に寄せてくる。
窓が開く。ゴクリ…
『トランク1つで生きていく』



