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エピソード21 『名もなき町で』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月16日
  • 読了時間: 2分

エピソード21

待ちわびた客はめっきり来なくて、僕はほとんど一人ぼっちで過ごした。

1日に1回くらいはタコ八が様子を見にきて、小言を放って去っていく。

そして2日に1回くらい、加藤さんが様子を見に来てくれる。

それに、街まで買い物に出る際は、僕にも一声かけてくれる。

伊座利の集落までは歩きでも出られるけど、

かといって、まともな店なんかありゃしない。

すると伊座利の人々は、車で30分走って街に出ないと、買い物ができないんだよ。

僕は車も無ければ免許も無いので、

加藤さんの車だけが、街にくり出す貴重な手段だった。



加藤さんは都会出身のIターン者で、ちょっと前に家族みんなで来たらしい。

奥さんと4人の子供がいる。

こっちに来てから素潜り漁を会得して、村の男たちと同じようにそれで生計を立ててる。

伊座利の主な収入源は、アワビや伊勢エビの素潜り漁なんだ。

でも、これらは高級食材だから、

一年のうちの何ヶ月かだけ頑張れば、生計は立てられるらしい。

それ以外のときは、タコ八みたいに村をブラついてるか、

村の過疎化阻止のために、みんなで会議してるよ。

村全体が、かなりのんびりしてるよ。

加藤さんはヤギみたいにのんびりした人だから、

伊座利の風がフィットするんだろうと思う。


街への買い出しには、加藤さんの子供たちもよく同行する。

4人とも総じてシャイで、僕ともあんまり会話しようとはしなかった。

だからあんまりよく覚えてないんだけど、一番上の子は女の子だったな。小6か中1か。

可愛らしい顔して、いっつもミニスカートばっかりはいてた。

加藤さん、愛娘がこんなに露出してて、心配にならないのかな?

短いミニスカートはいて、屈託なく笑って、

そんで集落の川原をいつも元気に駆け回ってた。男の子みたいに。

時々いるんだよ。こういうフシギな魅力の女の子が。


『名もなき町で』

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