エピソード23 『名もなき町で』
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- 2023年3月16日
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エピソード23
そして7月末には、
伊座利集落全土をあげて、漁村留学が開催された。
田舎移住を検討している都会人のための、体験イベントだよ。
村人よりも多い数の参加者が集まって、地元のテレビクルーも来てたりする。
川原でシュノーケル遊びをしたり、
漁港の横でカヌー遊びをしたり、
アワビカレーや刺身を試食したりする。
村人みんながスタッフで、子供たちも遊びのインストラクターを担ったりする。
100人程度の村だと、ホントにみんなが一致団結する。
路地裏でタバコ吸いながらサボってるヤンキーとか、一人もいやしない。
一人もいない。それが田舎の良いところだよ。
僕は、「この村に移住するのも、面白いかもな」って思ったよ。
人口100人足らずの村。みんなが顔見知りの村。
こういう村は、たしかに魅力的で、面白い。
悪いことすればすぐに村中に知れ渡っちゃうから、
つまり、こういうところに住もうとするヒトたちってのは、悪さをしようとはしないのさ
(例外も、ナイことはナイんだろうけど)。
警察なんて、必要ないんだ。実際、この村に交番は存在しない。
イベントが終わると、夜には打ち上げパーティがある。
漁協の2階に大会議室みたいのがあって、そこが宴会場になる。
女性たちはいつの間に、打ち上げの料理も準備してくれていた。
大人も子供もみんな一緒に、食事会がはじまる。学校の先生なんかも来てる。
女性たちはとても献身的で、
ロクに食べもせずに、ビールや麦茶を注いで回る。田舎にはそういう女性が多いらしい。
伊座利にも、ギャルが居ないこともない。
若者たちはたいてい、二十歳前後にもなると街に出ていってしまうようだけど、
なぜかこの田舎に居座り続ける、香水ぷんぷんギャルがいる。
あのメガネのおじさんは、この村で建設会社を営んでいるらしく、
そのお嬢ともなれば、出稼ぎに出る必要性など無いんだろう。
…しかし、ここの女性たちは本当に気が利く。
僕が食べ物に困っていることをどこかで聞きつけたらしく、
イベントや打ち上げで残った食料を、大量に鍋に入れて手土産にしてくれた。
「凍らせておけば10日は持つわ。」
ホントに10日分以上のカレーがあった(笑)
この漁村留学イベントはなかなか好評らしく、
毎年数名は、ホンキで移住してくる都会人が現れるらしい。
これといったキラーコンテンツの無い村なのに、
いや、だからこそ、伊座利は魅力的だったりするのかもしれないよ。
伊座利の魅力は、その独特な立地にもあるかもしれない。
電車駅からずいぶん離れているし、大きなスーパーまで車で30分もかかる。
まさしく、「陸の孤島」というような趣があるよ
(孤島みたいだけど本州にあるから、宅配便とかは標準価格で済んじゃうのが嬉しい)。
釣り人がときどき訪れるくらいで、部外者はホントに少ない。
呆れるくらい店(誘惑)が無く、だからとても静かだよ。
でも、最低限は踏まえてる(商店もカフェも宿泊施設もあるからね)。
車で30分走りさえすれば、一通り何でもあるし。
伊座利みたいな土地は、ハマる人はほんとハマると思う。
『名もなき町で』