エピソード53 『天空の城』
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- 2024年7月22日
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エピソード53
翌日はスタンシアラを出た。
そこからは少し長旅になったが、ずっと北の荒野地帯を目指した。
ときには荷馬車に乗せてもらうこともあった。たくさんの戦闘をデイジーとともに重ねた。
やがてアライゾという赤茶けた土地に辿り着く。
奇岩に覆われた、太古の地球を思わせるような広大な土地だ。絶景、とも言えるだろう。れいが憧れた、サランの村の日常とは大きく異なる風景の1つと言える。
小高い奇岩の1つに登って周囲を見渡すと、絶え間なく風が吹き抜ける。
1つ集落が見えた。そこに目的地を定める。
れ「デイジーはアライゾに来たことがあるの?」
デ「ハーメリアの・・・北の国の領土の、こういう荒野に来たことがある。似た風景だった。
原住民の暮らしも同じようなものだろう」
アライゾの里だ。
ここの原住民は、三角錐の形のテントをこしらえて暮らしていた。なるほど、とても原始的だ!石積みの家も面白かったが、これほど簡素な家に住むというのはとても興味深い。れいの胸は震えた。
れ「布張りの家で暮らせるの?」
デ「雨が降らないんだろう」
得体の知れぬ部族の里だというのに、デイジーは物おじせずに進んでいく。
すると村人に出会う。
村「ハーオ。何者だ?」
デ「旅の者だ。余計なことはしない。食料と寝床を少しだけ、分けてはもらえないか?」
村「金は取るぞ?」
デ「かまわない。10ゴールドでいいか?」
村「よし。着いてこい。
わしはワイズと言う。そなたらは?」
ワイズは自分のテントへと2人を先導した。テントはどれも同じような形をしているが、派手な色の装飾が違う。こうして自分の家であることを表しているのだろう。柄が表札の代わりである。
れ「たった10ゴールドでいいの?」れいは小声でデイジーに言った。
デ「原住民は金を使わずに暮らしている。10ゴールドでも大金なんだよ」
里は静かなものだった。人の声もたまにするが、ちょっとしたものだ。同じくらい、キーとかケーとかいう鳥の声がする。
テントの外に出て、腰を下ろして何かしている里人を見かける。トウモロコシの皮を剥いていたり、パイプを吹かしていたり、子供を胸であやしていたりする。れいたちを見てもそう驚く様子はない。余所者が来ることもあるのだろうか。
子供たちなどはれいやデイジーに興味を抱いてニヤニヤしているが、近づいてくることはないのだった。ワイズが付いているからだろうか。
たしかに、店のような施設はまったく見かけない。テントの外に何かの干物を大量に干す家などあるが、売っているわけではなさそうだ。
集落の先に大きな家が見える。これはテントではなく、巨大なチョコレートのような日干しレンガを積み上げた文明的な建物だ。
れ「ああいう家もあるのね」
ワ「酋長の家だ。あまり近づくなよ。酋長は気分屋だからな」
ワ「ここだ」
ワイズの家は、里によくある普通のテントだった。平均的な庶民なのだろう。
テントは間近で見ると思いのほか大きい。4~5人はくつろげそうな大きさだ。
珍しい住居をくぐることにとてもワクワクしたのも束の間、中は煙臭くてれいはむせてしまった。
テントの真ん中にある囲炉裏のせいかと思ったが、違う。部屋の奥に年老いた家族がおり、パイプを吹かしているのだった。
ここで一泊は辛いな、とれいは思った。
デイジーはバーでの様子から、れいが煙草を嫌うことを学習していて、気を利かせた。
デ「すまないが、パイプは外で吸ってもらえないか?」
気を悪くしてしまわないだろうか!とれいは心配したが、それを聞いた老人は黙って外に出てくれた。
そしてデイジーは、れいにも告げた。
デ「異文化で暮らしたいなら、多少の不快に耐える必要がある」
れ「わかりました」
ワ「まずはこれでも食っておけ」ワイズは、トウモロコシを原料とした平焼きのパンを、二人に差し出した。
小麦でないパンを食べるのは、れいは初めてだ。まったく膨らみのないパンを食べるのも、れいは初めてだ。
味はシンプルで素っ気ないが、不味くはない。トウモロコシがほのかに甘い。
スープの載った囲炉裏に火をかけると、ワイズはどこかに消えていった。