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エピソード6 『沈黙のレジスタンス』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月8日
  • 読了時間: 3分

考古学を学ぼうと決めてからは、

さらに頻繁に、遺跡に顔を出すようになった。

発掘なんて、キノコ岩の穴掘りと大差ない作業にも思えたが、

僕が発掘作業を手伝わせてもらえることは、ほとんど無かった。

とてもデリケートで、子供には任せられない作業なのだ。

スコップではなく小さなハケで、延々と地表をなで続けている。

最初は冗談でやっているのかと思ったが、そうではない。

遺跡を傷つけないためには、こんなふうに繊細に土を取り払う必要があるのだ。

子供の出る幕ではないのだった。

しかし、作業を眺めていても誰も怒りはしなかったし、

笑顔であいさつしてくれる大人も、少しずつ増えていった。


ある日のこと。

現場監督の考古学者が、僕に声をかけてきた。

日系の人らしく、名前をヒロト・トガワと言った。

「君のお父さんは、派遣組員の一人じゃろう?

 どこの町から来たんだい?」

「ガットキアです。」

「ほう。あのキノコ岩の土地か。

 そういえば、

 ガットキアには、すさまじい遺跡の伝説があるな。」

「すさまじい遺跡?何ですか、それは?」

「地底都市だよ。

 ガットキアのどこかに、巨大な地底都市が潜んでいるとかいないとか…」

「あっはは!

 それはきっと、子供たちが掘った秘密基地のことです。

 ガットキアの岩は柔らかいんですよ。だからあっちこっちに穴を掘ってます。」

「いやいや、それはわかっとるさ。

 子供のイタズラレベルの話ではないんじゃ。

 2万人もの人間が、地下都市で避難生活していたという伝説が、

 古い古い文献に残っているんじゃよ。」

「2万人が暮らせる地下都市!?」

僕は仰天した。たしかにそれは、僕らの穴掘りとは次元が違う。

「まぁ、2万人を収容する地下都市など、現実味が無いな。

 ピラミッド並みの建設労力を要するんではないか?莫大な月日もな。

 そんなことを、ど田舎の長が一時代で成し得たとは思えん。

 伝説は伝説にすぎんのかもしれんよ。」 

「そうなんですか…。」


もし真実なら、ただごとじゃないぞ!

デニーの言っていた「何かもっと思いがけないこと」は、

ひょっとしたら、これなのかもしれない。

僕は、図書館に行って、その地下都市について調べてみた。

ヒロト監督が「伝説」と言っていただけあって、あまり広く知れたものではないらしく、

唯一、とある手書きの古い書物にだけ、その手がかりがつづられていた。


 ガットキアの地中には、広大な地下都市が広がっている。

 ラーマ帝国の迫害から逃げてきた、原初キリスト教徒の人々が、

 この地に隠れ住んだという。

 内部には教会や学校、食料貯蔵庫なども存在し、

 長期的な滞在をも可能にしていた。


それだけだった。詳しい場所は書かれておらず、

建設者やその時代、いつごろまで使われていたかなど、

明らかにはなっていないらしい。


僕はある日、それとなく監督に尋ねた。

「ヒロト監督。地下都市を発掘することは、お金になりますか?」

「発掘かね?まぁ、2万人規模の洞窟ともなれば、文化的価値があるじゃろう。

 このエフェソス遺跡と同じように、

 国の事業として研究や保存がされる可能性は、あるな。

 …おぬし、地下都市を掘り返すつもりなのか?」

「え?いや、なんとなく思っただけですよ。あははは。」



『沈黙のレジスタンス』

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