エピソード6 『沈黙のレジスタンス』
考古学を学ぼうと決めてからは、
さらに頻繁に、遺跡に顔を出すようになった。
発掘なんて、キノコ岩の穴掘りと大差ない作業にも思えたが、
僕が発掘作業を手伝わせてもらえることは、ほとんど無かった。
とてもデリケートで、子供には任せられない作業なのだ。
スコップではなく小さなハケで、延々と地表をなで続けている。
最初は冗談でやっているのかと思ったが、そうではない。
遺跡を傷つけないためには、こんなふうに繊細に土を取り払う必要があるのだ。
子供の出る幕ではないのだった。
しかし、作業を眺めていても誰も怒りはしなかったし、
笑顔であいさつしてくれる大人も、少しずつ増えていった。
ある日のこと。
現場監督の考古学者が、僕に声をかけてきた。
日系の人らしく、名前をヒロト・トガワと言った。
「君のお父さんは、派遣組員の一人じゃろう?
どこの町から来たんだい?」
「ガットキアです。」
「ほう。あのキノコ岩の土地か。
そういえば、
ガットキアには、すさまじい遺跡の伝説があるな。」
「すさまじい遺跡?何ですか、それは?」
「地底都市だよ。
ガットキアのどこかに、巨大な地底都市が潜んでいるとかいないとか…」
「あっはは!
それはきっと、子供たちが掘った秘密基地のことです。
ガットキアの岩は柔らかいんですよ。だからあっちこっちに穴を掘ってます。」
「いやいや、それはわかっとるさ。
子供のイタズラレベルの話ではないんじゃ。
2万人もの人間が、地下都市で避難生活していたという伝説が、
古い古い文献に残っているんじゃよ。」
「2万人が暮らせる地下都市!?」
僕は仰天した。たしかにそれは、僕らの穴掘りとは次元が違う。
「まぁ、2万人を収容する地下都市など、現実味が無いな。
ピラミッド並みの建設労力を要するんではないか?莫大な月日もな。
そんなことを、ど田舎の長が一時代で成し得たとは思えん。
伝説は伝説にすぎんのかもしれんよ。」
「そうなんですか…。」
もし真実なら、ただごとじゃないぞ!
デニーの言っていた「何かもっと思いがけないこと」は、
ひょっとしたら、これなのかもしれない。
僕は、図書館に行って、その地下都市について調べてみた。
ヒロト監督が「伝説」と言っていただけあって、あまり広く知れたものではないらしく、
唯一、とある手書きの古い書物にだけ、その手がかりがつづられていた。
ガットキアの地中には、広大な地下都市が広がっている。
ラーマ帝国の迫害から逃げてきた、原初キリスト教徒の人々が、
この地に隠れ住んだという。
内部には教会や学校、食料貯蔵庫なども存在し、
長期的な滞在をも可能にしていた。
それだけだった。詳しい場所は書かれておらず、
建設者やその時代、いつごろまで使われていたかなど、
明らかにはなっていないらしい。
僕はある日、それとなく監督に尋ねた。
「ヒロト監督。地下都市を発掘することは、お金になりますか?」
「発掘かね?まぁ、2万人規模の洞窟ともなれば、文化的価値があるじゃろう。
このエフェソス遺跡と同じように、
国の事業として研究や保存がされる可能性は、あるな。
…おぬし、地下都市を掘り返すつもりなのか?」
「え?いや、なんとなく思っただけですよ。あははは。」
『沈黙のレジスタンス』



