エピソード79 『天空の城』
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- 2024年7月22日
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エピソード79
神父が教会を捨てて旅立ってよかったのだろうか?セレンがあれだけ戸惑ったのだから良いと簡単に言えるものではないのだろう。それを手助けした自分は重罪なのかもしれない。だからためらうが、れいはこの街の神父に、「ある神父の旅立ちを助けながらこの街に来た」と吐露した。
「面白い冒険ですね」と神父は相槌を打った。
れいは神様のことはよくわからない。人に天罰を下すのか?悪いことをした人に天罰を下すのか?
もしかして、れいがけしかけたがゆえにセレンが剣を握ったことによって、セレンは神の怒りを買ったりするのだろうか?あの場では「そんなことはないはずだ」と進言したが、事実はわからず、れいは少し気がかりだった。
しかし、神父の回答は意外なほど曖昧だった。
神「神様っていうのは何なんでしょう?
世界各地に色々な噂があります。
地上の暮らしには飽きて、今はお空の上にいる。なんて話もありますね」
れ「聖書の中に、神様の記述があるのではないですか?」
神「そうですが、あまり詳しく書かれてはいません。
聖書において神は、メシアに対して助言をする存在です。数多くの助言をしてはいますが、何に対して怒るか、何を罰するか、神の考えのすべてはわかりません。聖書に記されたことのすべてが事実ともかぎりませんしね。多少は改竄(かいざん)を経ているとも聞きますし。時代によって、解釈も変わっています。
私が思うに、ですが・・・
『善く生きよう』『人の役に立ちたい』という思いがあれば、枝葉は気にしなくてよいのではないでしょうか。
・・・なんて言って、酒を呑みたがるだらしない神父の言い訳かもしれませんが」
れ「あれ?ちょっと待ってください。
教会の祭壇によく祀られている、メシア像の男の人が神ではないのですか?」
神「彼は神ではありませんよ。彼はメシアです。
彼は、神の声に忠実に振る舞うことで当時の民衆を救いました。だから英雄として崇められています」
そうだったのか。基本的なことを、れいはわかっていなかった。
教会はれいにとって、思索に耽る場所だ。神父の言うことがすべて正しいとはかぎらないのだが、哲学的な面持ちで真面目にれいの話に答えてくれる。それだけでありがたい。このような友は町中ではなかなか見つけられないし、れいは一人旅の最中である。
神父から何かを教わるだけではない。れいは神父に自分の出来事や考えを話すと、そのときに新しい気づきを得たりする。話すことで自分の本心に気づいたりもする。矛盾した二つの考えを持っていると、気づいたりする。
神父はどの考えもどの行いも、無暗に批判したりしない。「そうですか」と聞いてくれる。それで心が安心していると、新たな気づきを得やすいし、自分の本音に気づきやすい。