エピソード9 『イエスの子らよ』
10時を過ぎたころかしら。
エルサが、大きく伸びをして言ったわ。
「ふわーあ。アタシ、お裁縫あきちゃった。
ねぇ、気分転換しに行かない?」
「そういうのって、アリなの? 背の高いシスターに怒られるわよ?」
「大丈夫なのよ。とにかく何か、お仕事してればいいの。
お洗濯物干すの、手伝ってきましょう?ちょっと体動かしたいわ。」
「いいけど。」
私はエルサについていったわ。自分じゃ何もわかんないもの。
途中、あの教会を通ったの。一番最初にお祈りしたところ。
あの大きな正面扉が少し開いていて、そこだけまぶしい。
何で開いてるのか不思議に思って、手をかざしてよく見たら、
女の人と男の人が、扉のとこで立ち話してるのが見えた。
「あれ?シスター・サラじゃない!」エルサが言った。
「え?」
もう一度よく見てみると、たしかにさっきのチョコレートヘアの人だわ!
「は!」
エルサの声に気づいて、サラは走り去っていっちゃった。
私たちは、何も見なかったフリして、中庭へと歩いた。
「あいびきでもしてたのかしら?」私はヒソヒソ声で言った。
「修道院では、恋愛って禁止されてるのよ?」
「やっぱりサラって、問題児なの?」
「きっとあの修道士のほうがたぶらかしたんだわ。」
「いいなぁ。秘密の恋ってステキ。」私、恋ってしてみたいの。
「ひゃー!ヘドが出るわ!」
「エルサ、恋愛キライなの?」
「言ったじゃない?アタシ、男ってキライなのよ。
最初は優しくたって、2年目には暴力ふるうでしょ?」
「暴力しない男の人も、いるわ。」
「そうよ。でもそんなのって、100人に1人か2人よ。
暴力ふるわなくたって、ウソをつくわ。たくさんたくさん。
お金持ってるけど、ずる賢いでしょ。
男っていうのは、悪魔なの。悪魔と遊びたくはないわ。」
「男って悪魔なの?ウソでしょ?」
「よく知らないけど、
地獄から生まれてきたなら、悪魔なんじゃない?鬼っていうのかしら?
男っていうのはたいてい、地獄から生まれてきているのよ。」
「そうなの?みんな??」
「そうじゃない男もいるわ。100人に1人か2人くらいはね。
でも、悪魔じゃない男は、修道士になるか田舎の庭園の庭師になるの。
つまり、町で暮らしてたんじゃ、出会う男はみーんな悪魔なのよ。
だからアタシ、男と遊びたいと思わないし、お付き合いもしないわ。
ハズレしかないクジ引きして、楽しいわけないじゃない?」
「修道士か庭師?たったそれだけなの??」
「それだけってこともないわ。でも似たようなもんよ。」
「私、見分けが付くかしら?」
「そう難しくはないわよ。ワインにさえ気をつければ、ね。
とにかく、普通とは違う生き方をしてるのよ。お金儲けに夢中になったりはしてないの。
そういうのが当たりクジよ。1%しかいないんだから、出会うのは難しいわ。」
「ふうん。」
たしかに、エルサの言うとおりだわ。
私のほうがお姉さんだけど、エルサのほうが先輩よ。そういう感じ。
『イエスの子らよ』


