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第10節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』

  • 執筆者の写真: ・
  • 8月27日
  • 読了時間: 4分

第10節


今日も井戸へと水汲みに出る。すると、友人たちの様子はまた変化しているのだった。

ノアを見つけると距離を置き、遠巻きに見つめている。そして友人たちと何やらひそひそと話している。

女「踊りで注目を浴びれないからって、マリハナに頼って神様に繋がろうとしたらしいわよ」

女「グルグル回って踊っても誰も見向きしてくれなくて、ご神託の真似事とかしたんだって!エミリーが言ってたわ」

なんということだ!

ほむら祭りが終われば、踊りの主役が誰だとか、そういうことは冷めていくだろうと思ったのに・・・。仲間たちはまた新たな火種でもって、ノアのことをのけ者扱いしようとしている。

ノアの口から神が言葉を発したとき、村長はすぐに理解を示してくれた。マリハナもお酒も口にしていない、そう申告するだけで信じてくれた。しかし、皆が皆そうというわけではないようだった。


もういい。もう気にしない。ノアは執拗に落ち込まないように自分を律しながら、淡々と仕事を終えて家に戻った。

すると今度は来客である。降霊の儀で主役の座をノアに奪われた、ホンダラだった。

ホ「おい、ノア!一体何様のつもりなんだ!

 降霊の真似事なんてしやがって!

 おまえなんかに神様が語り掛けるわけがなかろう!百歩譲ってそうだったとして、どうせどこかでマリハナを手に入れたんだ!」

ノ「ホンダラさん!

 わたし、よくわかりません。でも何もズルのようなことはしていません。自分でも気づかないうちに、わからないことをしゃべっていただけなんです」

ホ「隠れてマリハナを吸っていたんだろう?悪いやつだ!」

ノ「マリハナなんて吸っていません!」

ホ「ここしばらく踊りの練習をサボり続けてたっていうじゃないか!大方(おおかた)北の村まで買い付けに行ってたんだろう!」

ノ「そんな!!」


若い女たちだけでなく、村の大人たちまでノアのことを煙たがるのだろうか。

ホンダラの形相を見て、ノアはきっとそうなのだと落ち込んだ。

ノアはついに、その日は学校までもを休んだ。


しかし「学校に行ってきます」と親に告げて家を出てきたノアだ。

村の裏通りをあてもなくさまよい、人目に付きたくないので結局また西の浜に出てきた。しかし今日はくるくる回る気分にもなれず。強い日差しもものともせず、波に足だけ浸かりながらただただぼーっと海の向こうを眺めていた。


それを、ユキが通りかかる。

ユキさん 『世界のはじまり ~花のワルツ~』
ユキ

ユキはノアの後ろ姿をしばらく眺めていた。

すべてを察したユキは、ノアにそろそろと近寄り「行こう」と小さくつぶやいた。そして彼女の腕を掴んで歩きだした。

ノ「ちょ、ユキさん!」ノアは驚いたが、いつも通り村長のところに行くつもりなのだろうと察した。


そうだったが、そうじゃなかった。

ユキは村長の家には声をかけず、黙って洞窟へと抜けていく。

洞窟には、先日からユキが試作していたイカダが転がっていた。

ノ「村長さんには声をかけないの?」

ユ「いいんだ。

 ちょっと手伝ってくれないか。このイカダを海に出すんだ」

ノ「えぇ」

なんのことかわからないが、ノアはユキと一緒にイカダをずりずりと押して海へと運び出す。

ユキはいつもよりも静かで、神妙に見える。私のことを気遣ってくれているんだろうか、とノアは思った。

ユ「あの紐をほどいて、帆を開いてくれ」

ノ「えぇ」

ノアがイカダの帆を開いている間、ユキは洞窟のガラクタの山を何やら漁っている。シャキン、スー。聞きなれない音がする。

イカダに戻ってきたユキは、2つの短剣とヤリを抱えていた。

ノ「村長さんの宝物よ。勝手にいじっていいの?」

ユ「はい」ユキは短剣を1つ、ノアに差し出した。

ノ「え?」ノアは目を丸くしながらも、差し出されたものを受け取る。

ユ「いいんだ。冒険に出るときは剣を持っていくんだって、村長さん言ってたろ?」

ノ「冒険に・・・いくの?」

ザザーン 波がイカダに打ち付ける。

ユ「そうさ。海の向こうへ」

ザザーン 波はいつもよりも大きな音を立てて啼いている。

ノ「え?」

ユキは強いまなざしでノアを見つめた。

ユ「行こう。ともに」

そう言うが同時に、イカダを海へ蹴りだし、そしてノアの手を強く引っ張りイカダの上へ誘(いざな)った!

ノ「えぇ!?」

ザザーン! 波の音がいつもよりも強く聞こえる。


わたしが?冒険に?

今から・・・!?


しかし・・・


ノ「えぇ」

遠い目をしてノアは、促されるままにイカダの上にペタンと座り込んだ。


「手をつなぐことを、恐れないで」


今朝、誰かが言っていた。夢の中で。

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