第10節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』
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- 8月27日
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第10節
今日も井戸へと水汲みに出る。すると、友人たちの様子はまた変化しているのだった。
ノアを見つけると距離を置き、遠巻きに見つめている。そして友人たちと何やらひそひそと話している。
女「踊りで注目を浴びれないからって、マリハナに頼って神様に繋がろうとしたらしいわよ」
女「グルグル回って踊っても誰も見向きしてくれなくて、ご神託の真似事とかしたんだって!エミリーが言ってたわ」
なんということだ!
ほむら祭りが終われば、踊りの主役が誰だとか、そういうことは冷めていくだろうと思ったのに・・・。仲間たちはまた新たな火種でもって、ノアのことをのけ者扱いしようとしている。
ノアの口から神が言葉を発したとき、村長はすぐに理解を示してくれた。マリハナもお酒も口にしていない、そう申告するだけで信じてくれた。しかし、皆が皆そうというわけではないようだった。
もういい。もう気にしない。ノアは執拗に落ち込まないように自分を律しながら、淡々と仕事を終えて家に戻った。
すると今度は来客である。降霊の儀で主役の座をノアに奪われた、ホンダラだった。
ホ「おい、ノア!一体何様のつもりなんだ!
降霊の真似事なんてしやがって!
おまえなんかに神様が語り掛けるわけがなかろう!百歩譲ってそうだったとして、どうせどこかでマリハナを手に入れたんだ!」
ノ「ホンダラさん!
わたし、よくわかりません。でも何もズルのようなことはしていません。自分でも気づかないうちに、わからないことをしゃべっていただけなんです」
ホ「隠れてマリハナを吸っていたんだろう?悪いやつだ!」
ノ「マリハナなんて吸っていません!」
ホ「ここしばらく踊りの練習をサボり続けてたっていうじゃないか!大方(おおかた)北の村まで買い付けに行ってたんだろう!」
ノ「そんな!!」
若い女たちだけでなく、村の大人たちまでノアのことを煙たがるのだろうか。
ホンダラの形相を見て、ノアはきっとそうなのだと落ち込んだ。
ノアはついに、その日は学校までもを休んだ。
しかし「学校に行ってきます」と親に告げて家を出てきたノアだ。
村の裏通りをあてもなくさまよい、人目に付きたくないので結局また西の浜に出てきた。しかし今日はくるくる回る気分にもなれず。強い日差しもものともせず、波に足だけ浸かりながらただただぼーっと海の向こうを眺めていた。
それを、ユキが通りかかる。

ユキはノアの後ろ姿をしばらく眺めていた。
すべてを察したユキは、ノアにそろそろと近寄り「行こう」と小さくつぶやいた。そして彼女の腕を掴んで歩きだした。
ノ「ちょ、ユキさん!」ノアは驚いたが、いつも通り村長のところに行くつもりなのだろうと察した。
そうだったが、そうじゃなかった。
ユキは村長の家には声をかけず、黙って洞窟へと抜けていく。
洞窟には、先日からユキが試作していたイカダが転がっていた。
ノ「村長さんには声をかけないの?」
ユ「いいんだ。
ちょっと手伝ってくれないか。このイカダを海に出すんだ」
ノ「えぇ」
なんのことかわからないが、ノアはユキと一緒にイカダをずりずりと押して海へと運び出す。
ユキはいつもよりも静かで、神妙に見える。私のことを気遣ってくれているんだろうか、とノアは思った。
ユ「あの紐をほどいて、帆を開いてくれ」
ノ「えぇ」
ノアがイカダの帆を開いている間、ユキは洞窟のガラクタの山を何やら漁っている。シャキン、スー。聞きなれない音がする。
イカダに戻ってきたユキは、2つの短剣とヤリを抱えていた。
ノ「村長さんの宝物よ。勝手にいじっていいの?」
ユ「はい」ユキは短剣を1つ、ノアに差し出した。
ノ「え?」ノアは目を丸くしながらも、差し出されたものを受け取る。
ユ「いいんだ。冒険に出るときは剣を持っていくんだって、村長さん言ってたろ?」
ノ「冒険に・・・いくの?」
ザザーン 波がイカダに打ち付ける。
ユ「そうさ。海の向こうへ」
ザザーン 波はいつもよりも大きな音を立てて啼いている。
ノ「え?」
ユキは強いまなざしでノアを見つめた。
ユ「行こう。ともに」
そう言うが同時に、イカダを海へ蹴りだし、そしてノアの手を強く引っ張りイカダの上へ誘(いざな)った!
ノ「えぇ!?」
ザザーン! 波の音がいつもよりも強く聞こえる。
わたしが?冒険に?
今から・・・!?
しかし・・・
ノ「えぇ」
遠い目をしてノアは、促されるままにイカダの上にペタンと座り込んだ。
「手をつなぐことを、恐れないで」
今朝、誰かが言っていた。夢の中で。