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第13節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』

  • 執筆者の写真: ・
  • 8月27日
  • 読了時間: 2分

第13節


ザザーン ザザーン

沖に出ると、ユキはオールで漕ぐのをやめた。

そして、今来た西の浜を遠く見やった。もう島も見えないが。

ノ「そういえば、『魚が凶暴になる』ってほむら祭りのときに神様が言ってたわ」

ユ「いや、あれは魔物だったんだろう。ただの魚じゃないよ。

 魚だったら、敵意丸出しでイカダを襲ったりはしないだろう」

ノ「あれが・・・」

まさか自分が、魔物なるものと相対する日が来るとは。

ユ「それにしても。村長さん、魔法が使えたんだな。そんなこと一言も言わなかったよ、これまで」

誇らしい技術を持っていても、それを隠そうとする人もいる。なぜそんなことをするのだろうか?今のノアになら、なんとなくわかるような気がするのだった。

ノ「村長さん・・・」

ユ「大丈夫。生きてるさ」



波はゆっくりと、2人のイカダを運んだ。

そしてやがて、イカダはどこかの浜辺へと流れついた。まだ日は明るい。午後3時といったところか。

2人は上陸を試みる。そんな大層なものではない。短剣とヤリを持って、イカダから降り、知らない砂浜を踏むだけだ。


男「誰だオメェらは?」がたいの大きな見知らぬ男が、不思議そうに2人を眺めている。

ユ「ここは、どこですか?」ユキは質問には答えず、質問をぶつけてしまった。

ユキはヤリを放り投げた。ノアはそれに倣(なら)って短剣を放り投げた。

男には、この2人が柄の悪い侵略者には見えなかった。邪険にすべき者たちではない。

男「ここは、人類が最初に降り立った誇らしい島だべよ」

ユ「え!」

ノ「コーミズに戻ってきてしまったの?」

ユ「そんなはずはない。彼の服装はコーミズのものじゃない」

男「どっから来たんだ?」

誰も相手の質問に答えていないが、話は進んでいる。会話とは、言葉だけで行うものではないのだ。

ユ「日が昇る方角から、この船で流れついてきました。

 助けを必要としています。どうか食料だけでも」

男「・・・・・・。

 ついてこい」

男は2人に情けをかけた。

男「ほらよ」男は胸に抱えた、今採ってきたフルーツを2人に寄越した。

ユ「ありがとう」

男「それは貴重品なんだ。泉のそばでしか採れねぇんだからな。えっへっへ、カネ払えよあとで!」

ユ「お金なんて持ってないんです!」

男「えっへっへ。冗談だよ。カネの使い道なんてオレもよく知らねぇさ」

ノ「心を開いて、大丈夫なのかしら?」ノアは小声で、不安げにユキに言った。

ユ「大丈夫だろう。懸けるしかない」

ノ「美味しい!」ノアは感嘆の声をあげた。養分のいっぱい詰まったマンゴーであった。

男は、己をアギロと名乗った。

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