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第14節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』

  • 執筆者の写真: ・
  • 8月27日
  • 読了時間: 4分

第14節


3人はやがて集落にたどりつく。コーミズとよく似た素朴な村だ。木の家がまばらに立ち並んでいる。クダカの村というらしい。

アギロはそのうちの1つの軒下をくぐった。

女「あらおかえり」女房らしき女が出迎えた。

ア「客人だ。えっへっへ」

妻「おやまぁ!」

ユ「ど、どうも」

家の前で子供たちのはしゃぎ声が聞こえる。

男は何かを思い立つと、再び表に出てその子らに声を掛けた。

ア「おいププル、ちょっと浜に遊びに行ってこい!」

プ「はぁーい」

子供らは一瞬ぽかんとし、しかし男の言うことを聞くのだった。

ア「えっへっへ。息子だよ」彼の息子が混じっているらしかった。

ア「なんか温ったかいもの作ってやってくれよ」

妻「はいはい」

言葉はぶっきらぼうだが、情のある人たちであるらしい。


料理の完成を待つ間に、2人は眠ってしまった。夫婦は2人を起こさなかった。

居間の囲炉裏でスープが静かにクツクツと音を立てている。



?「邪魔するぞ」

夜は20時を回った。2人を起こしたのは、玄関から聞こえる新たな声だった。

?「見慣れぬ者がいると聞いたぞ?」

ア「あぁ村長さんか。明日にでも行こうと思っていたんだよ」

長「害はないという意味だな?」

ア「そう思ったよ。とても疲れている」

一行は温かいスープを囲んで夕食を摂った。

長「して、おまえさんたちはどっから来たんだって?」

ユ「コーミズという村です。日の昇るほうから舟で流れついてきました。

 僕はユキといいます。こっちは・・・」

ノ「ノアです。あのう、ご飯をくれてありがとうございます」

長「日の出の島からか。何十年ぶりじゃろな」

ユ「僕らの島から人が来たことがあるのですか!?」

長「いやぁ同じ島かはわからんがのう」

ノ「えぇ!?」

長「日の出の方角の島といったって、幾つもあるんじゃから」

ノ「そうなんですか!?

 島ってそんなにたくさんあるのですか!?」

長「はっはっは。幾つあるかはわしも知らんがね。4つや5つではないじゃろな」

ノ「世界って、そんなに広いの・・・!?」


ア「ほら、スープはおかわりあるぞ。朝から何も食べていないんじゃないか?」

ユ「ありがとうございます!いただきます」

ノ「このスープ、とても美味しいです。何の魚のダシですか?」

ア「魚じゃないよ。肉だ。イノシシの肉だ」

ユ「イノシシでダシを取るのですか!?」

ア「日の出の国は違うのか?この辺じゃ魚よりも肉でダシを取るな」

ユ「イノシシと、戦うということですか!?」

ア「そうだよ」

ユ「村によって、やはり暮らしが色々違うんだな・・・!」

ノ「い、イノシシと、戦うのですか?こわいですね・・・」

ア「おまえのとこじゃ戦わないのか?だからそんな細い腕してるのか。

 肉を得るためにはイノシシとも戦わなきゃならんだろうよ」

ユ「魚を獲るだけでも、生きていけるかも?」

長「それがまぁ、文化の違いというやつじゃな」

イノシシと戦うと聞いて、ノアはこの村の人たちが少し怖くなった。胸がドキドキする。


ユキはノアの心の乱れを察した。そして話題を変えた。

ユ「村長さん。僕らに目的も何も尋ねないですが、よいのですか?」

ア「おまえ最初にオレが尋ねたって、何も言わなかったじぇねぇかよ!」

ユ「あれは動揺していて・・・」

長「はっはっは。悪者に尋問して、『悪党です』と正直に言うか?

 最近この島も流れつく者が少々増えてな。そろそろわしも学習したよ。

 『何者か』と聞かなくても、世間話をすれば相手の心は読める」

ア「顔を見りゃな。まぁ察しはつくさ。ヤリ持ってたって、真っ青な顔してたよ。

 早とちりはイカンと頭のいい奴は言うがな。まぁ察しはつくさ」

妻「あんたは顔だけじゃ悪党に見えたもんだよ!」

ア「うるせえっ!」

長「そうだぞ!少しは慎重さも必要じゃろうが!」

ア「いざとなりゃ腕づくさ。おまえ、イノシシより弱いだろ?」

ユ「えぇ、まぁ。戦ったことはないですけど」

生まれて初めて訪れた、海の外の国。

コーミズとよく似ているが、どこか違う。ノアはその微妙な違いに、言葉にできない面白さを感じていた。


家の外に出ることは、おもしろい・・・?

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