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第15節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』

  • 執筆者の写真: ・
  • 8月27日
  • 読了時間: 4分

第2章 神の怒り

第15節


「大変だーーーー!!!」

翌朝は、誰かの叫び声で起こされることとなった。

2人は飛び起きる。知らない町で朝を迎えた感慨に浸る間もないのは、少々もったいないが仕方ない。


一行は声のする方へ駆けつける。村にある大きな蔵だ。様々なものの貯蔵庫である。

中ではアギロのようにがたいの大きな男が慌てふためいていた。

ア「どうした!」

男「奉納の食料品が、クマに襲われた!」

食料品があったとおぼしき棚は、その大半が失われているのがわかる。

ア「オレが持ってきたマンゴーまで無ぇじゃねぇかよ!」

男「朝来たら、クマが食べちまっていた!」

長「クマなんておらんじゃないか?」

男「ホントにクマなんだよ!」

ア「そんなこと言って、おめぇが食ったんじゃないのか?マンゴー食いてぇって言ってたなそういや!」

長「そうなのか?」

男「オレじゃねぇよ!食いてぇなんてのは言ったが・・・」

ア「クマなんて居いやしねぇじゃんかよ」

荒らされた形跡はあるが・・・。

男「そ、それが・・・!

 撃退したら、消えちまったんだ・・・!!」

長「なに!?」

ア「何言ってんだよおめぇは!

 上手いもんたらふく食いたいなら素直に言えよ。たまには・・・」

男「ホントにクマがやったんだ!

 ホントに、クマをやっつけたが消えちまったんだよ!!」

ア「おまえ寝ぼけんのもいい加減にし・・・」

ユ「魔物だ・・・!」

ア・長「えぇ!?」

ユ「モンスターでしょう!

 村の村長さんが言っていました。モンスターは倒すと、姿がぱっと消えるそうです。それが動物と魔物の違いだって」

長「モンスターだって?それはおとぎ話じゃろうが?」

ユ「いいえ!僕らのいた島にはいました。やたら大きなネズミなら、僕も見たことがあります」

ノ「魚も魔物!?」

ア・長「えぇ!?」

ユ「そうだ!船出のときに襲われた巨大な魚も、やけに凶暴でした。あれはただの魚じゃなかったのかもしれない」

ノ「『魚が凶暴になる』って、ほむら祭のときに神様が言ってたけど・・・」

ユ「魚自体が凶暴化するだけでなく、魚や動物ではない凶暴な生き物が増える、という意味なのかもしれません」

長「なんと・・・!!」

アギロは村の男に向いて言った。

ア「でもよぉ。そのクマじみたヤツをオマエは倒せたんだろ?じゃぁ心配要らねぇな。

 えっへっへ!やっぱ腕っぷしを鍛えてきた甲斐があるってもんだよ」

長「しかし、すべての人間がクマを倒せるわけではない。やはりこれは一大事だぞ・・・」

そのようだ。ユキもノアも思った。



一行は蔵から出た。村長は家に戻り、3人はなんとなしにクダカの村をぶらつき始めた。

するとおもむろにアギロは言った。

ア「ユキと言ったか?ありがとうな」

ユ・ノ「え?」

ユ「僕は何もしていませんが・・・」

ア「おめえがオレの友人の無罪を救ってやったんだよ」

ユ「でも責めたてたのはアギロさんですよ?」

ア「えっへっへ。そうだがよ。ん-と、なんつーか・・・。

  たとえ友人だろうが、村の平和を乱すなら取っ組み合いのケンカだってしなきゃなんねぇ。やりたくなくたって、殴らなきゃなんねぇケンカもあんだよ」アギロは遠い目をして言った。色々な過去があるのか、と2人は察した。

ア「でもおめえさんが『犯人は魔物だ』って仲裁したろ?だからオレはヤツと殴り合いをせずに済んだ。それはありがてぇことだよ」

ユ「・・・!

 えぇ、どうも・・・」

意外と頭の良い人なのかもしれない、とユキは思った。

複雑なことを言うもんだ、とノアは思った。おそらく・・・私がアギロさんの立場だったらここで「ありがとう」という言葉は出てこない。そして、コーミズの踊り子仲間たちからもきっと、この場面で「ありがとう」という言葉は出てこない。

人の頭の良さというのは、知識量を競うものではない。ロジカルな会話が得意かどうかで計れるものでもない。左脳だけで計れるものではない。もっと総合的な、優しさや洞察力や嗅覚だって加味されるべきものだ。

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