第17節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』
- ・
- 8月27日
- 読了時間: 6分
第17節
アギロは改めて胸騒ぎがしたが、クダカ村はもうすでに、毒に冒されはじめているのだった。
3人が次に見たのは、村のはずれの道端に御座を広げる見慣れぬ行商の姿だった。3人は行商というものを見たことがなく、それが行商だと最初はわからなかったが。
御座の上にはメロンやスイカなど、この村では採れないフルーツが並んでいる。
ア「なんだこれは?」アギロはその行商に声をかける。
商「おぉ!異国の美味しいフルーツが、1つ5ゴールドだよ!ここにあるぶんでおしまいさ!」
ア「おい、クダカは商売が禁じられているはずだが?」
商「えぇ?そうなのかい?みんな立ち話で取引してるじゃないか」
店を構えずに行われる商売があるのだ!
ア「おまえ、北の村の者だな?
この村にやってきて、メシや寝床は村のやつがタダで施してやったはずだ。
それなのにおまえは、それをカネで売るのか?」
商「そりゃぁアレだよ、イノシシのスープや藁の寝床は腐るほどあるだろ?
でもフルーツってのは希少なんだからさ。高い価値が付くってもんさ」
ユ「そうか。こうして珍しいものを欲しがる気持ちから、お金を欲しがりはじめるのか!」
ア「商売をやめるんだ。村長に追い出されるぞ」
商「まだそんな古いこと言ってるのか?噂通りなんだなぁ」
ア「異国の者の行動は制限させれば済むことだ」
商「海の向こうの奴らを制限したって意味ないぜ。
北の村も西の村も、カネを使って商売をしはじめているんだ。クダカだけだぜ未だにカネを使ってないのは」
ア「なに!そうなのか!?」
商「大丈夫かおっさん?時代に取り残されるぜそんなんじゃ」
ア「どういうことだ!?カネを持っているのなんてごくわずかな人間だけのはずだぞ!」
商「魔物のお陰だよ。最近増えたろ魔物が」
3人「えぇ!?」
商「魔物は、倒したら姿がパっと消えちまう。でも、消えるんじゃなくてゴールドに姿を変えるんだ。
この村の奴らは腕っぷしが強いだろ?大ねずみどころかマンドリルまでやっつけることが出来る。だから金稼ぎが上手いだろうよ。商売するのにうってつけだぜ。へへへ!。帰ったらまたメロンの栽培に勤しむんだ。あぁ忙しい!」
ユ「魔物が増えて物騒になったが、お金を得られるようになって商売に病みつきになっていく・・・!」
ノアは商売人に尋ねた。
ノ「神様が怒ったら、山が火を吹くのですよ?」
商「はははは!神を怒らせなければいいんだよ!」
ア「だから商売をすることが神の怒りを買うんだよ!」
商「機嫌をとればいいのさ」
ユ「どうやって?」
商「お前らの村は宗教を知らないのか?あの山は霊山だ。魂が宿ってる」
ア「だから怒るんだろうよ!」
商「北の村には宗教が発達してるよ。ちゃーんと教えてる。
神の機嫌を損ねそうなときには、神の機嫌をとればいいらしいぜ?お供えものをやるんだ。家に神棚を作ってお供え物をやれば、神は機嫌を直すんだよ」
ア「そんなバカな話があるか!」
商「立派な神棚を買えばそのぶん神様はおめぐみをくれるんだ!だからがんばってカネ稼がないとな!
ほれ、メロン3つで15ゴールド。いいや、12ゴールドにマケてやるぞ!」
ア「買うかバカやろう!」
3人は足早にそこを離れた。
ノアは物珍しそうに先の商売人を振り返る。
ア「見るな!病が移るぞ!」アギロはノアの頭をわし掴んで無理やり前を向かせるのだった。
アギロは2人に向いて言い放った。
ア「おまえら、もうこの村を出ろ」
ユ「え!やはり寝床や食事にお金を払うべきなのでしょうか?」
ノ「どうかもう少し、情けをください!」
ア「そういうことじゃねぇよ。
この村はもう腐りはじめている。おまえらが居座っても良いことはないぜ。
ていうか目的は何なんだ?何をしに、どこに行くつもりなんだ?」
ユ「!」ユキはノアの顔を見た。ノアもユキの顔を見上げた。
ユ「何も・・・決めていません。
とにかくコーミズの村から出たかったんです。
ア「平和に暮らしたいんだろう?」
ユ「そう・・・だと思います」ユキはノアを見て言った。
ア「クダカはその目的に向かねぇよ。もっといい場所を探しな」
ノ「そうですね。北や西にも村があると言っていましたね」
ア「いや、もうこの島を離れたほうがいいだろう。
北の村も西の村も、ここより前に商売をはじめたと言っていた。ここよりも酷いだろう。寝床すら恵んでもらえないかもしれないしな」
ユ「そうなのか!他の土地に行くなら、寝床も食事も情けをかけてもらえるものではないのか!」
ノ「どうしよう?」
ア「あぁ!つまりだな。
どのみちおまえらは、ちょっとはカネというやつに迎合する必要があるな。商売なんかする必要はないが、メシを買うだけのカネは持つ必要がある。きっと、この先は」
ユ「でも、何も売るものがありません!」
ア「だから商売なんかしなくていいんだよ。
戦うんだ」
ノ・ユ「え!?」
ア「ヤリを持ってたな。ちょっとは戦えるんだろ?
イノシシを殺すなんて野蛮な奴らを軽蔑するだろうが、大ねずみくらいは自分から探し出して倒すんだ。魔物を倒せばわずかばかりのゴールドが手に入る。それをかき集めながら旅するんだ。メシと寝床くらいはどうにかなるだろうよ。体を鍛えるつもりで戦えばいいんだよ。そしたらイノシシの肉だって狩れるようになる。それも大事な生きる術だ」
ユ「あ・・・ありがとうございます!」
ア「えっへっへ。オレはバカだがな。おまえらより長く生きてきたぶん、少しは知っていることがある。
村長さんも、きっと同じような助言をするだろうよ。たぶんな」
ノ「ありがとうございます!」
ア「娘っこよ。血を見ることを恐れるな。
戦いをユキにばかり任せてはいられないんだよ。
血を見ることを恐れるな。どうにか慣れろ。
人はな、野蛮でなくちゃ生きていけないんだよ。おまえたちの村以外ではな」
ア「わたしが・・・!?
戦えません!戦いなんて知らないのです」
ア「短剣を持ってるんだろうよ。それでどうにかなる。
ぶっ刺せばどうにかなる。剣ってのはそういうもんなんだよ。
血を見ることを恐れなければ、どうにかなる」
ユ「やれるか?」ユキはノアの目を見て言った。
ノ「わからないけど・・・」
ア「いいんだよ。いきなり自信があったりはしねぇんだ。
この村だって、子供はみーんな弱虫だった」
ユ「それとも・・・、コーミズに帰るか?」
ノ「え!?」
ユ「世界とはもっと、平和で楽しいものかと思っていたんだけどさ。
魔物なんてのは、コーミズの踊り子たちよりももっと怖いものだろうよ。
ノアはあの日絶望したけれど、コーミズのほうがマシなのかもしれない。
帰るか?村に」
ノ「・・・・・・。
・・・・・・」
ノアは立ち尽くしてしまった。
ア「ちっとは泊まってくか?別に追い出したいわけじゃねぇん・・・」
ノ「行くわ!!」
ユ「え?」
ア「なに?」
ノ「わたし、行く!」
ユ「コーミズに、帰るんだな?」
ノ「ちがうわ!どこかに行く!
どこか知らないところに行く!
私、たぶん、コーミズから逃げたいだけじゃないの。何か知らないものを見に行きたいの!!」
私、たぶん、コーミズから逃げたいだけじゃないの。何か知らないものを見に行きたいの!!