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第25節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』

  • 執筆者の写真: ・
  • 8月27日
  • 読了時間: 4分

第25節


夕刻前に2人は村に戻る。村の中には珍しいものがたくさんありそうで、それを見て周りたい気持ちもあったが、昨日の男にお金を返すのが先決だ。あまりよそ見もせずに宿に戻り、宿の居間で夕食をしながらルドマンが顔を見せるのを待った。

目論み通り彼は、夜半になるとそこに夕飯を食べに来た。

2人は大手を振って歓迎し、そしてテーブルの上に今日稼いだゴールドをジャラジャラと広げて見せびらかしてみせた。

ル「おぉ、すごいな!魔物を倒せるのか君たちは」

ユ「どうにかこうにか、という感じでしたが(汗)」

ノ「あはははは」ノアは頭をかいた。

ル「3日間くらいは食事に困らないんじゃないか?」

ユ「まずは、お金をお返しします」

ノ「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・」ノアは借りた8ゴールドをきっちり数えて、彼に丁寧に手渡した。

すると・・・

宿「普通はな、借りた額に色を付けて返すんだよ。9枚渡しとくのが筋ってもんだ」

宿屋の店主が横から口を挟んだ。

ユ「そ、そうなのですか?」

ル「まぁ世の礼儀としてはね、そういうことも覚えておくといい。

 しかし私にそういうものは要らんよ。それに4枚でいい。昨日の昼飯の4ゴールドは、餞別としてくれてやったつもりなんだ」

ノ「えぇ、いいのですか!?」昨日は8ゴールド返せと言っていたが、ルドマンは粋な計らいを見せるのだった。

ル「いいんだいいんだ。私は金持ちじゃないから、これくらいの餞別が精いっぱいなんだ。

 4枚あればな、通りに行けばダンゴが食えるぞ。

 いつかはね、君らみたいな爽やかな若者に、太っ腹な餞別をくれてやれるような器の大きな男になりたいもんだがね。

 ほら、座りなさい。今日もちゃんと夕飯を食べて、精を付けるんだぞ。君たち少し細すぎて心配だ」

宿「恵まれたな、アンタら。こんなに善いことはないんだよ!」

ユ「あ、ありがとうございます!」

ル「いいんだいいんだ。私も夕飯を食べよう。

 テーブルに一緒に座っていいかね?」

ノ「もちろんです!」

ユ「もう少しお話を聞きたいと思っていたんです」

ル「そうかそうか」ルドマンは嬉しそうに微笑んだ。



ノアはルドマンに質問をした。

ノ「あのう、この村はありすの人とありすの姫と、2人が造ったのですか?」

ル「ありすの尊(みこと)とありさの姫、だね。まぁややこしいもんだよ。

 そうだ。そのように云われているね。私もそう詳しくは知らないが。隣の村の者だからな」

ノ「2人で子を産んで、多くの人を増やしていったのですか?」

ル「そうだよ。2人でこの地にやってきたらしいぞ。おかしなことを聞くもんだな?」

妙ちくりんなことを聞くなぁ、とユキも思った。

ル「・・・まぁいいが。

 他にもいたんなら歴史書にはそいつらの名前も残っているんじゃないか?古事記だとかなんとかいって、伝承が残っているんだよ。ありすとありさの最初の子供があかねとあかりだ。双子の女の子だ。その次があおいとやよいで・・・あとは何だっけな。なんか女の子ばっかりだったんだぞ最初は、たしか。

宿「ありすっていうのは冒険者って意味なんだ。ありさってのはそれの女性名詞さ。

 2人はどこか遠い星からこの地に降りたったんだ。

 あかねっていうのは東の空から上る太陽のこと。あかりっていうのは人に希望を示すランプの光のことだよ」

宿の店主は誇らしげに、話に割って入ってきた。

ノ「あ、どうも」

ル「そこまでは聞いとらんのじゃないかね?あまり色々話したって、頭がパンクするだけなんだよ」


ユ「女ばかりで国が造れたのですかね?」

ル「ありすの尊とありさの姫は、農業の神様なんだよ。2人はコメの作り方を知っていた。だからイノシシだとか追わなくたって食べていくことが出来た」

ユ「コメっていうのは、豆のようなものですか?」

ル「そうだそうだ。君が今食べているスープに入ってる小さな粒々が、まさにコメさ」

ユ「これか!豆の仲間かと思っていました」

ノ「わたしも一口食べてさせて」

すると不意に軒先から声がした。

男「ルドマンさん!さっきの数字が合わないって、棟梁さんがごねてますぜ。ちょっと来てくんなまし!」

ル「なに?せっかく食べ始めたところだっていうのに。しょうがないなぁ。

 おい旦那、この雑炊はここに置いておいてくれよ。下げないでくれな」

ルドマンは仕事仲間に呼ばれ、村のどこかに消えてしまった。


今日もくたびれたと思っていたが、ルドマンと話しているうちに元気が出た。元気とはどういう仕組みなんだろうか?陽が沈みきる前に僕らももう少し歩いてみようか、ということになった。

宿「真っ暗になる前に戻ってくるんだよ。どこだかわからなくなるからね!」

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