第27節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』
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- 8月27日
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第27節

モモとの会話は続いた。ノアは尋ねる。
ノ「毎日、村の人はお金をくれるのですか?」
モ「はは。踊ってたってぜんぜんおひねりが貰えないときもあるよ。踊りで稼ぐならそういう覚悟が必要だ。収入の安定する稼業じゃない。
でもあたしは大丈夫なんだ。昼間はね、これを持って道に立つ」
すると彼女は、足元の細い棒を拾って掲げて見せた。
なんだこれは?2人は目を細めた。暗いからなおさらわからない。
モ「横笛さ。楽器は知ってるのかい?」
ユ「笛か!僕らの村にもあります」
モ「あたしは横笛もたしなむんだ。昼間はね、これを吹いてる。踊り子ほどまゆをひそめられることはないさ。夜になって暗くなったら、踊りを踊る。
この村は結構音楽を楽しんでくれるよ。なんでもありさの姫ってのは、音楽の神様だったっていうじゃないか!」
ノ「えぇ?ありさの姫は農業の神様だと聞きました。ついさっき」
モ「ありさは音楽の神だよ。横笛を上手に吹く神様だったんだ。そういう絵を見たことあるんだから、間違いないよ」
どっちが正しいのだろうか?よくわからない。
モ「そんでありすの神はトゥーラを弾くんだ」
ユ「えぇ!僕もトゥーラをたしなむんです」
モ「はは、そうかい。あんたたちなんか、気が合いそうだな。はは。
ありすもありさも、楽器を弾いておひねりもらいながら、宇宙から旅してきたんじゃないのか?はは」
あながちモモの妄想でもないのだった。
ノ「モモさんもありすの神様が気になるの?」
モ「え?気になるってこともないよ。何日もこの村にいりゃ勝手に耳に入ってくる。あちこち絵が貼ってあるしさ。
この村は酒をあまり飲まないだろ?危険が少ないから、だからちょっと気に入ってるんだ」
ノ「もう1つ、聞いてもいいですか?」
モ「あぁ。なんだって」
ノ「明るい見た目とは裏腹に、しっとりした踊りを踊るんだなぁと意外に思いました」
モ「はは。まぁ色々踊るけどね。でもしっとりした踊りが好きだよ。桃源郷の古典舞いさ。
あたし、踊りっていうか美しいのが好きなんだ。静かな踊りのほうがさ?こういう耳飾りとか首飾りとか腕輪とかが、キレイに揺れるんだよ。
激しい踊りをすると耳飾りも何も飛んでいっちまう。それがナンでさ。大きな耳飾りとか着けたいときは静かなのを踊るよ、わりかしね」
ノ「へぇ!」
モ「あとは歌なんてのは、心をこめたいときは静かなほうがいいんだ。陽気な曲だと誰も歌詞を聞いちゃいない」
ノ「なんで歌ってさすらっているのか・・・話を聞いてもいまいちよくわからないわ」
モ「ははは、そうだね。色々あって、歌を歌いたくなったよ」
ユ「今それを話してもらったんだ」
モ「色々あるんだ。話しきれやしないよ!
隠すつもりもないけどさ、話しきれもしない。
1つだけ言っとくとすれば・・・アンタたちの役に立ちたいから言うけどさ?
誰しもみんな、多少のヒミツを持って生きてるんだ」
ノ「え?」
モ「15まではそれに苦しむかもしれないよ。でもね、いつか『ヒミツを打ち明けてもいいかも』って思える人を見つけるもんさ。そして洗いざらい話したら、楽になるよ。
境遇が似てる誰かだ。きっとね。
はは。抱えたヒミツは苦しいよ。何で神様はこんなふうにしたんだ?って恨みたくもなる。
でも、そのヒミツをどうあしらっていくかってのも、人生の試練の1つなわけさ。そういうのを乗り越えていかなくちゃなんないんだよ。いつかママが解決してくれないときがくる。複雑なやつなんだ」
ノ「へぇ・・・」
おい!うるさいぞ!と近所の住民からクレームが入った。そして3人は宿屋へと戻った。モモはランタンを持っており、それをかざして真っ暗な村を器用に歩く。2人を宿屋へ無事届けてやるのだった。
モ「じゃぁな。はは」
ノ「あ・・・!」しかしモモは振り返らずに駆けていってしまった。
ノアはモモと友達になりたかった。色々なことがわかり合えるような気がしたし、色々と教えてほしいと思った。しかしモモはさばさばと立ち去ってしまうのだった。