第30節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』
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- 8月27日
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第3章 お金
第30節
同じ村にいればモモにすぐ会えると思ったが、意外とそうはいかなかった。彼女はどこに行ったのだろう?あの日、井戸場で夜中に「うるさい」とクレームを受け、彼女は翌日、村の遠いところまで場所を変えたのだった。同じところでばかり演じていても、その住民は踊りに飽きる。おひねりも渋るようになる。だから彼女は、出没場所をころころ変えるのだった。
カネを稼ぎ、人から恨まれずに、頑丈に生きていくには、それなりにしたたかに振る舞う必要がある。5年のさすらいの中で身に着けた教訓だ。旅人は、ずっと同じ場所にいることは色々な意味で難しい。それがわかっていたから、モモは2人に明日のおしゃべりの約束をしなかったのだ。その期待を抱かせなかったのだ。彼女は人懐っこいが、サバサバしていて強い。
2人はこのような人を見たことがなかった。女性はなおさら寂しがりで群れたがるから、モモの存在はなおさら浮き立って見えた。
そう。ニライカナイの村は広いのだった。2人が仕事をした田んぼ地帯を挟んで、その向こうにも集落がある。さらにその向こうにも田んぼがあり、また集落がある。コーミズ村よりもずっと広いのだった。
2週間の稲作労働の中で、もう1度だけモモに出会った。それは向こうの集落に遊びに出かけた休日のことだった。
街角で笛の音がしたからもしやと思って駆け寄ると、そこにモモはいた。

その日の昼食を3人は共にした。
モモは仕事道具を抱えて茶屋の座敷に入ったが、フルート以外にも思いのほか色々なものを持っているのだった。キラキラしたものが、道具箱の中にごちゃごちゃとたくさん入っている。
モ「装飾品の類だよ。はは」
ノ「きれい・・・!」
モ「踊りや笛を披露しておひねりをめぐんでもらうには、踊りや笛が達者なだけじゃだめなんだ。美しさで目を引かなきゃなんない」
ノ「えぇ」ノアはそれは理解が出来た。村の踊りでも言われてきたことだ。
モ「まぁ仕事のためでもあるけど、キラキラしたものが好きなもんでさ。はは」
女とは大抵、キラキラと鮮やかな服飾品が好きなのだ。
ユ「でも、どれもメロンより高いのでは?」
モ「うん?10か15か、まぁ色々だよ」
ノ「わたしたちの一日のお給金だ!それに、宿に泊まった場合の1日の生活費だ!」やはり装飾品は、生活品と比べて「高い」と言える。
ユ「田んぼで頑張っても、1日で5ゴールドばかしの貯金しか出来ないけど、モモはどうしてそんなにお金を持っているのですか?」
ノ「踊りって稼げるのですね!」
モ「はは。色々だよ。踊りがひと晩で100ゴールドにもなることもあるけど、5ゴールドにしかならないこともある。横笛もそうだよ」
ノ「それでこんなに買い物が出来るの?」
モ「カネが欲しいときは、魔物を倒しに森に行くかな」
ノ・ユ「えぇ!」
ユ「モモは魔物と戦えるのですか!?」
モ「あぁ、多少はね。だって旅をするなら、道中の魔物を蹴散らしていかないと進めないよ。よっぽどカネがあったら馬車を雇ったりも出来るんだろうけどさ。そんな富豪じゃないんだから。地道に歩いて魔物を倒すさ」
モモはスカートのスリットから華麗なナイフを引き抜いて、ふふふと笑って見せびらかした。
ノ「わたしが持ってるのと同じような、小さな剣だわ」
モ「武器はこれだけじゃないけどね。ふふふ」
ノアはナイフが出てきたスリットをじっと見つめた。
モ「どうしてこんなところに武器を仕舞うのかって?」
ノ「え、えぇ」
モ「はは。仕舞っているのであり、見せているのでもある。はは」
ノ・ユ「えぇ!」
モ「踊りを踊ってると、男が口説いてきやすいんだよ。それがうっとおしいだろ?
スリットに剣を差してると、踊ってるときに客にチラチラ見える。すると客は察する。コイツを強引に口説いてもナイフを突き立ててくるだろう、ってね。それで大抵の男は縮こまるってもんさ。
踊り子は可愛くなくちゃいけない。でも可愛いだけじゃダメだ」
したたかだ。と2人は唸った。
ノ「わたしの村では、踊っていても男の人には好かれないわ」
モ「そんなに可愛いのに?そりゃいい村だな。男が穏やかなんだろう」
ノ「いい村なんですか?」
モ「いい村だよ。男が口説いてこないのはいい村だ」
ノ「でもいじめてくる子はいます」
モ「それは子供だろう?」
ノ「そうかも」
モ「子供は仕方ないよ。まだバカなんだから」
ノ「へぇ・・・」
モ「それはそうと、ノアちゃんの服だって細かい針子細工が入ってるよ!それ高いだろう?」
ノ「えぇ?高いもなにもないです。
これはお婆ちゃんに作ってもらったから、お金なんてかかってないの」
ユ「僕らのコーミズ村には、お金っていうのがなかったんです」
モ「あぁそうか。
ところで、あんたたちの旅はどこに向かってるんだい?」
2人は顔を見合わせた。