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第33節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』

  • 執筆者の写真: ・
  • 8月27日
  • 読了時間: 4分

第33節


場面はノアとユキに戻る。

2人は田んぼに戻った。

「村長さんに会いたい」と話すと、責任者は訴状を書いてくれた。

次の休みの日、2人は村の奥の村長の館へと繰り出す。

稲作を手伝っている田んぼを越え、その奥の集落も突っ切っていく。また田んぼがあり、そして集落がある。


やがて大きな屋敷にぶち当たる。ここだろう。

柵の内側には花壇があり、老婆が一人、草花の手入れをしていた。

ユ「あのう、村長さんに会いたいのですが」

婆「えぇ、私ですけれど?」

ノ・ユ「えぇ!?」

ユ「ニライカナイ村の、村長さんですか?」

婆「えぇ、私ですとも。ミネアといいますよ。

 おほほほ。女性が村長なんて!と驚いているのでしょう」

ユ「あ、いえ・・・」

ミ「だってここは始祖の民が息づく村。

 ありすの尊とありさの姫が造った村です。

 2人の始祖は、政治の神でした。彼らは、『長は女であるほうがいい』と考えて、代々ニライカナイはその習慣を守ってきました。

 男を長にすると、どうしても男は腕力で女を支配しようとしますからね。または腕力で女を押し倒します。『男女平等だ』って口では言っていたって、どこか腕力で威嚇しているようなフシがある。そんな社会は嫌なもの」

ユ「へぇ・・・」

ミ「ところで、あなた方はどなた?」

ユキは稲作の責任者に書いてもらった訴状を見せた。

ミ「ふむふむ。なるほどね。

 北の海から来なさったの。そんな若い2人がね。まぁ大変だったことでしょう。

 それで、この村で家でも買いたいの?」

ユ「いえ、買いたいのは、家じゃなくて舟なのですが」

ミ「まぁ、どういうことでしょうね!」



ミネアは2人を屋敷に通した。

客間とおぼしき場所に腰かけて、3人は話に戻る。

ミ「舟なんて他所の人には売れないのよ。

 でもね、どういうことなんですの?」ミネアは、耳を傾ける懐は持ち併せているようだった。

ユ「僕たちは、北のほうのコーミズという村を出てきました。

 そして手作りのイカダでこの村の北の海岸に流れ着きました。この村も大きくて素晴らしいですけれど、東にあるという他の島に行きたいのです。

 そのためには、あのクモみたいな形の転覆しない舟が欲しいのです」

ミ「お金なんて持ってそうに見えませんけど?」

ユ「は、はい・・・なので。古い舟か何かが、安く譲って貰えたりしないかなと、期待を持ってやってきました」

ミ「まぁね。古い舟を自分で直して、海に出るなんてことも不可能ではなさそうね。

 でも。

 ・・・・・・。

 あなた、嘘を言ったわね?」

ノ・ユ「えぇ!?」

ユ「い、いえ!何も嘘なんて!

 僕らは盗賊でも商人でもありません!本当にコーミズという小さな村から流れついてきたのです!」

ミ「おかしいわ。イカダの漂着なんて聞いてませんけど?

 村に出入りする者のすべては監視できませんけどね、外海からやってくる舟については報告を集めています。イカダの漂着なんてここ最近、聞いていませんよ。どうしたものかしら?」

ユ「い、いえ!イカダは浜に着く直前に、波に打ち付けられて壊れてしまったのです。それで必死に泳いで、辿り着いたもので・・・」

ミ「どうして?どうして嘘をつくの?」

ユ「嘘なんてついていません!」

ミ「北の海に流れついたのなら、バンカーボートを知っているわけないのです。

 浮き脚のついたあの舟は、今では東の浜だけに制限されています。それをどうして、北の海からやってきたあなたが知っているというの?

 まるでバンカーボートに乗ったかのような口ぶりだったわよ?」

ユ「そ、それは・・・」

ノ「あのう、実は」ノアは自分たちがこの村の者に助けられたことを打ち明けようとした。

ユ「いや、何でもありません。

 行こう、ノア」

しかしユキは、ノアを制止した。

命を助けてくれたあの男との約束を、破るのは筋違いに思えた。


微妙なせめぎ合いだった。村長は2人の願いを聞き入れてくれそうにもない。「何かが怪しい」と思っている。しかし「村から出ていけ」とも言わなかった。2人が暴力や不正を働くようには見えなかったのだろう。まだ処分は「保留」だ。

かといって、この村にずっと滞在し続けることを許可してくれるとは思えない。仮に旅に行き詰ってこの村に住むとすれば、村長の認可など必要になるだろう。

どうする?長居は出来ない。しかしどうにか大金を貯めて舟を買わなければならない・・・。

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