第35節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』
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- 8月27日
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第35節
翌日、また夕暮れ近くに東の海へとやってきた。
マーカスを探す。とつげきうおが殲滅できたのか、確かめなければいけない。マーカスは状況を理解し、再び沖に舟を出してくれた。
しかし・・・
残念ながら、とつげきうおは今日も昨日と同じくらい盛んに、舟を狙って飛び交うのだった・・・。
マ「昨日は日が暮れて眠っただけだったんだな」
ユ「絶滅って、どれくらい倒せばいいんだろうか・・・」そもそも不可能なことのような気もする。
頑張ってもキリがなさそうなので、数匹を倒したのみで浜に戻ってきた。
すると、浜には村長のミネアが待ち構えているのだった。
ユ「村長さん!」
ミ「あなたたちがトビウオを撃退してくれたんですってね」
ユ「それが、何十匹かは倒したのですが、絶滅というわけにはいきませんでした。何十匹かは倒し、村の平和に貢献できたと思います」
ノ「この村のために、がんばったんです!」
ミ「えぇ。何十匹でも倒してくれたことは感謝いたします」
ユ「では!」
ミ「では。では、何?」
ユ「では・・・」二人の潔白を認めてもらおうと思ったのだが、ミネアの目を見ると言葉の先が続かなかった。
ミ「では、何でしょう?
あなたがたが何十匹かのトビウオを倒してくれたとしても、だからといって純真無垢な聖人であるという証明にはなりません。人助けは良いこと。しかし行ったのは他でもなく戦闘。あなたがたは皮肉にも、自分がヤリの戦いに長けていることをも証明してしまった。それはこの平和な村において、一抹の緊張が走ることをも意味します」
ユ「そ、そんな・・・」
ノ「そんな!わたしたち、村のために魔物と戦ったのです!」
ミ「村のために?
そうなのかもしれませんが、『報奨金のために』なのかもしれません」
ノ「そんな!ひどい!」
ミ「えぇ、私はひどいことを言っているかもしれません。でも、私の推理が正しいかもしれません。まだ何が真実かわかりません」
ミネアは厳しい顔つきで言うのだった。1つ呼吸を置く。
ミ「それが、『村を守る』ということなのです」
ノ「村長さん!」
ユ「いいんだ。ノア、大声を出すな」
ノ「でも!」
ユ「村長さんの言うことは間違ってはいない。
実際、悪意あるものが正義のフリをして、悪者退治をすることだってあるだろう。
1つ人助けをしたから、そいつを正義だと信頼していいのか?そうじゃないだろう。それは僕にもわかる」
ノ「じゃぁわたしたちの無罪をどうやって証明するの!?」
ミ「嘘など付かなければよかったのです。私は、外部の者を根こそぎ嫌うわけではありません」
ユ「・・・・・・。
証明は、できないよ。あきらめよう」
ノ「そんな・・・」
マ「わ、悪いやつには見えないですぜ村長」
マーカスは愛着の湧いた2人に、せめてものかばいの言葉を差し伸べた。
しかし村長は、それには何も反応しないのだった。
3人はそこを立ち去った。
「ありがとうございます」とユキはマーカスに礼を言った。
マ「村長さんもね、悪い人じゃねぇんだよ。いっつも村のこと考えてる。あんたらも悪い人じゃなさそうだし、まいったなぁオレは」
ユ「いえ、いいんです」
ノ「悪い人じゃなさそうなのよ」ノアも言った。ミネアのことだ。悪人面には思えないのである。
マ「えへへ、昔は美人だったらしいぜ。踊りとか踊れるんだ」
ノ「まぁ!」それを知るとなおさら親近感が湧いてしまう。ノアは屋敷の花壇で初めてミネアに話しかけた瞬間のことを思い出していた。優しい動作で草花を愛で、同じ瞳で来客者を出迎えていた。従者と勘違いしてしまうような謙虚な物腰をしていた。
マ「でも隣町の富豪の口説きとかに乗らねぇんだと。それがまたカッコいい」
ユキは半分の耳では2人の会話を聞き、もう半分の耳ではぼーっと考え事をしていた。
2人はとぼとぼと下宿へと戻る。
ノ「八方ふさがりになってしまったわ・・・」
ノアはひどく落胆した。
ユ「いいや」
ノ「え?」
ユ「そんなことはないんだ。八方ふさがりってこともない。
快適な明日ではないかもしれないけど、八方ふさがりでも絶望でもないだろう?」
ノ「どうして?」
ユ「だって、酒呑みが多いとはいえ西の村に行くって手もある。
カネがかかるって言ってたけど南の遠い城を探してみる手もある」
ノ「そっか」
ユ「それに、この村でまだやれることはあるかもしれない」
ノ「!!」
絶望のように感じても、本当に絶望とはかぎらないのだ。
だから人は、無暗に泣き叫んではいけない。人を恨んで恨みに生きてもいけない。



