第38章 アークボルト
- ・
- 2023年3月1日
- 読了時間: 4分
第38章 アークボルト
宿屋のロビーはバーを兼ねているが、そこには旅の神父が一人、酒を飲んでいた。
神「おやおや、ずいぶん身軽ななりの旅人ですね」彼は人恋しそうに二人に話しかけた。
リ「えぇ、色々とこだわりがありまして」リオは簡潔に回答をした。
神「この国には5人目の英雄がいた。そんな話を耳にしたことがあります。
その彼は戦争が起きたとき、敵国を打ち負かそうとはしなかった。
『国を捨て、遠く離れた場所に村を築いて暮らそう』と提案したそうです。
彼の考えに賛同した民も若干数いたそうですが、『日和見主義は国家を滅亡させる!』と危険思想者扱いされ、彼は島流しに遭ったそうです」
リ「へぇ…」
神「戦いを嫌う神父です。私は彼にちょっと共感してしまいますね。
はは。どうでもいい話でした。おやすみなさい」
翌朝、宿を出て冒険に出ようとすると、宿主に声を掛けられた。
宿「今日はどちらにお出かけで?
冒険者なら、王様に謁見しておいたほうがよいのでは?」
二人は王になど興味はないが、それが必要なことなのだろうと察した。
賑わう町を抜けて城を目指す。町は昼間から色んな意味で活気がある。元気な兵士が多く、町民は元気に英雄談義を交わしている。子供たちは剣のおもちゃを振り回して駆け回る。
酒場には昼間から男たちが集まっていた。大声で延々としゃべり続けている。
男「オマエ知ってるか?魔王って昔、ビジネスマンだったらしいぜ!」
男「おい、おまえ酔いすぎだよ!」
男「ホントだって!魔王っつったってモンスターとは限らんさ」
城は冒険者にも開かれているようで、二人の来城を兵士たちが怒りだす雰囲気は無かった。「王に粗相のないように」それは繰り返し言われるのだった。
城の者たちに話を聞いていると、「今この国では、国民投票が開催されている」ということだった。それで国はなおさらガヤガヤしている。4人の古の英雄のうち、誰が真の英雄か、それを国民投票で決めるというのである。
アークボルト城の周囲には、東西南北それぞれに立派な遺跡がある。二人が最初に抜けてきたのは南の遺跡だ。他に3つもあるらしい。遺跡を手入れして国の英雄を讃えたいが、4つ同時に行うことは出来ない。その優先順位を、つまり国の最たる英雄を改めて決め直さなければならない、という話だ。
一応、アークボルトが真の英雄ということになっている。だからこの国はアークボルトという名前で呼ばれている。
リオはマナのために、今城で得た情報を箇条書きにまとめてやった。
今城では国民投票が行われてる
4人の英雄のうち誰が真の英雄か?投票する
城の東西南北に4つの遺跡がある
遺跡はそれぞれの英雄のゆかりの地
いちおうアークボルトが真の英雄候補
リ「わかった?」
マ「うーん、タブン(汗)」
王は立派な玉座に堂々と腰かけ、そして横には大臣を従えていた。
王「謁見ご苦労、旅の者よ。
私はアークボルト16世。英雄アークボルト1世の正統なる後継者にして、この国の王だ。 この国はいつまでも強者でなければならない。栄光の前に権威の確立は重要なものだ。
国民投票に参加したいなら、好きにするがよい。遠慮はいらんぞ」
「あっそう」と思ったが、もちろん口にはしなかった。権力争いなど二人には興味がないのだ。
丁重にお辞儀をして、二人は立ち去ろうとした。するとその瞬間、大臣に呼び止められた。大臣は二人に駆け寄ってきて、耳打ちするように話しかけた。
大「旅の者。どうかあなた方も国民投票に参加してはくださらぬか?ぜひともお願いしたい。
というのも、今の様子だと投票数の合計は国民の過半数に満たない。英雄争いに白熱する者も多いが、我関せずな者も多いのだ。
もちろん投票者の多くは我がアークボルト王の祖先に投じるだろう。だとしても総数が過半数を超えないと…『無効だ!』と騒ぐ者が現れ、同じ論争が繰り返されかねない。王の権威が、おびやかされかねないのだよ」
リ「へぇ。コメントをするのが難しいですが、私たちも冒険に目的が欲しいところでした。」
大「そうだろうそうだろう。
国を見て回りなさい。誰が真の英雄か、わかるはずじゃ」
二人は今度こそ、王の間から去ろうとした。
階段を降りようとするその直前、1人の男がすれちがいざまに王に駆け寄り、大声をあげた。
男「「王よ!やはり議会を設置すべきです!
今回の国民投票を特例と言わずに、何事も投票で決定すべきです!」
王「またそなたか。やかましい男じゃ」
二人は振り返り、そのやりとりを見守っていた。
あまりこの城下で見ない雰囲気の男だった。
オシャレなノーブルコートをひるがえし、オシャレな細身剣を腰に挿している。そしていわゆるイケメンな顔立ちをしていた。
リ「あれは誰なのですか?」リオは近くの兵士に尋ねた。
兵「近衛兵団長のブラストだよ。王の片腕にして、ブレーンでもある。
頭の良い男でね。剣技だけでなく魔法も器用に操ってみせる」
「立ち去れ!立ち去れ!」と大臣はブラストに吠えている。
絶対王政を続けたがる王と、民主主義を求める家臣。
武力で英雄譚を築き上げた者の末裔と、文武両道の家臣。
リオはなんとなくこの国の様子が見えてきた。
『僧侶だけで魔王を倒すには?』