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第6節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』

  • 執筆者の写真: ・
  • 8月27日
  • 読了時間: 3分

第6節


西の浜の近くに村長の家はあるのだった。

ユ「村長さーん!」ユキが叫ぶが、返事はない。

ユ「今日も裏かな」

ノ「裏?」

ユキはノアを引き連れて、村長の家の裏手に回る。

ノ「こんなところ、来たことないわ」

裏手には畑があり、まばらに手入れされてあった。

ノ「野良仕事するの?」

ユ「いや。

 ほら、洞窟があるだろ」

ユキは裏庭のその先を指さした。

ノ「まぁ!」数十メートルの先には、海に面した小さな岩山があるのだった。

こちら側からは岩山にしか見えなかったが、回り込んでみると洞窟になっているのだった。

ノ「うわぁ!」

ノアは感嘆の声を上げた。

村長の秘密の洞窟には、大きなガラクタがたくさん転がっていたからだ!

モ「おぉ、やけに甲高い声がすると思ったら。

 珍しいお客さんじゃないか♪」

ユ「西の浜でなんか落ち込んでたから、連れてきたんだ」

ノ「こんにちは。おじゃましまーす」

モ「ほうほう」

ノ「村長さん、これは何なのですか?」ノアは手近にあった木製の物体をバンバンとなでながら尋ねた。

モ「イカダじゃよ。まぁ簡易な船じゃな」

ノ「船!?これが海に浮かぶのですか!?」

ユ「とまぁこんなふうにさ?見たこともないものを色々勉強してんのさ」

ノ「浜に流れついたものを色々いじくっているって、聞いたことがあります!」

モ「ほっほっほ!

 西の浜はな、波に乗って色んなものが流れついてきよる。

 モノだけじゃないぞ。モノは文化を宿しておる。こいつらを眺めてたら、遠い海の向こうの色んなことが見えてくる」

ユ「これは何なのかな?って考えたり、真似して作ってみたりするのさ」

ノ「人が作ったものに見えます・・・!」

モ「そうじゃよ。どう見ても人の手で作られている」

ノ「海の向こうにも、人がいるのですか!?」

モ「そりゃそうじゃ♪」

ユ「ははは。楽しいだろう?」

ノ「考えたこともなかった・・・!!」


ユ「村長さん。

 次はそのイカダを造ってみましょうよ。同じようなヤツをさ」

モ「うん?

 そうじゃな。イカダも悪くない。やってみようかのう」



それからというもの、ノアはたびたび西の浜に一人で繰り出すのだった。

ここなら女友達に遭遇することはまずない。

そして、あの日のようにくるくると回っていた。

「回りなさい」

と、何者かはそれ以降も、ノアの脳裏に訴えかけるのだ。2回目以降、ノアは人ではないものからの語り掛けであることに気づきはしたが、くるくる回るという踊りめいた練習は嫌ではないと感じたので、なんとなくそれに従い続けた。

そして彼女は、だんだんと器用にまっすぐ、速く、長時間回ることが出来るようになっていった。


そしてノアが浜辺で回っているときに、村長宅へ向かうユキが通りかかることがあった。ユキはノアに声を掛け、一緒に村長のもとへ行く。

そうしてユキの「勉強」に、ノアも付き合うようになっていった。ノアは、ユキとも村長とも少しずつ打ち解けていく。

ノアは新しい友達を得て情緒が落ち着いた。そして知らない世界のことを教わったり想像したりすることは、ノアの好奇心を大いにくすぐった。


皆と違うことをするのは勇気が要る。しかし、それはあなたに新しい道を切り拓く。

今の仲間たちと同じことをして、社会の流行と同じことをして、幸せでたまらないのならそのままでよいのだ。でも、何か虚しさを感じているのなら・・・?

あなたらしい人生とは、そうやって創ってゆくのだ。

学校では教えてくれないが、「前へならえ」の次のステップがある。


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