第9節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』
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- 8月27日
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第9節
そして後ろにいたのは・・・
しゃがみこんでうつろに揺れる、ノアなのだった。
ぐらぐら ぐらぐら
「豆を・・・豆を植えなさい」
モ「ノア!」モーセは驚き、聴衆をかき分けてノアの元に駆け寄る。
ノアはうつろに揺れている。
モ「ノア!そなた、マリハナの煙を吸ったのか!?」
ぐらぐら ぐらぐら
ノ「いいえ、吸っていません。煙は嫌いですもの」
モ「それでは酒を飲んだのか?
紫色のジュースを飲んだのか!?」
ノ「いいえ、お酒なんて臭いもの」
ぐらぐら ぐらぐら
モ「神が!神が降りたのか!?
マリハナも使わぬ生身の少女に、神が降りたのか!?」
モーセがノアの肩を揺すると、むしろノアは脱力してしまった。うつろな目をすっかり閉じきって、眠ってしまった。
ユ「真実のシャーマンが、ついにこの村にも現れたってのか・・・?」
二人の様子を見守っていたユキが、驚きの表情を浮かべてそうつぶやいた。
民「真実のシャーマンが!?」
民「マリハナに頼らずに神と繋がれる少女が現れたぞー!」
ざわざわ ざわざわ
ユ「そういえば、昔は降霊の儀も踊り子が務めていたって、村長さん言ってたな」
翌朝。
ノアは夢を見ていた。
目の前には麗しい天女がいる。
「手をつなぐことを、恐れないで」
そこでノアは目を覚ました。
ノ「なんだったのかしら。印象深い夢だわ」
ノアは頭を整理した。お告げじみた夢以前に、昨夜は大切なほむら祭りだったことを思い出す。そうだ。途中で倒れて眠ってしまったのを記憶している。
「手をつなぐことを、恐れないで」
ノアは目を覚ます前にもう一度、夢で耳にした言葉を復唱して心に刻んだ。
昨夜、昏睡したノアを家まで送り届けたのは村長モーセとテオだった。
テオは村長の良き理解者であり、「気は優しくて力持ち」を地でいく優男だ。気質に反してがたいが大きく、力仕事を苦にしない。
なぜ親が介抱しないのか?ノアの親はノアとあまり仲が良くないのだった。悪い人ではないが、ノアの母親は若い頃、足をくじいて踊りを断念している。自分が達成できなかったことをイキイキと成し遂げる娘を、眺めているのが辛いのだった。そして父親は妻を愛しており、妻の機嫌を守るためには娘に素っ気なく接する必要があるのだった。どちらも決して悪い人間でなかったが、ノアと相性が悪いのだった。両親は祭りにも顔を出していないのだった。



