エピソード100『世界樹 -妖精さんを仲間にするには?-』
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- 2024年5月2日
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エピソード100
馬車は北東へと向かって走った。
馬車の中で、アミンは語る。
ア「・・・するとさぁ、ベルガラックと同じようなことが、他の街でも起こりうるってことじゃないの?」
キ「何が?」
ア「街が発展しすぎて、結界が及ばないってことだよ。
吟遊詩人が、時代の進展を見据えて大きめに結界を張っていたとしても、その余力を超えて発展しすぎる街が、他にも増えていくだろきっと?」
ゆ「それに、吟遊詩人さんの時代にはなかった町や村だってあるんじゃない?」
ア「そういう新しい町の増加に伴い、魔物に襲われる町、治安の悪くなる町は増えていく・・・」
キ「どこの聖書にも、『文明の発展が臨界点を超えたら世界が滅びる』って書いてあるけど、予言ていうかものの道理なのかもしれないわ」
な「文明が発展するのって良くないことなの??」
キ「節度を守りましょう、ってことよ」
な「たとえば?」
キ「馬車を使うのはいい。でも飛行機はまずい。
スイーツを食べるのはいい。でも甘さ控えめにしよう。
人が増えるのはいい。でも政治で統制できる人数にはかぎりがある。
そういうことよ」
ゆ「私たちの住んでたエンドールの街も国も、大きすぎる気がするわ・・・」
キ「だからゆなは、そんな暮らしに違和感を感じたんでしょ?いい感性してるわよね♪」
ゆ「違和感を感じたの?私」
キ「そうだと思うけど。違うの?」
ゆ「そうかも」
な「ねぇキキちゃん?お砂糖控えめのケーキのレシピ教えて?」
キ「おやすい御用よ♡」
一行は北東を目指す。
馬車を持ってはいても、ときには馬と一緒に大地を歩いたりもする。
風景を眺めながら、草の香りを吸い込みながら、花の数を数えながら、珍しい蝶に逃げられながら、地形の脅威を感じながら歩く。それこそれが旅だ、とも思ったりする。疲れればいつでも馬車に入ればいい。でも疲れてもなお1日中歩いてみたりする。
期限に追い立てられないと、時には気力が湧かない。朝から眠く、昼になっても眠くて怠かったりもする。しかし期限に追い立てられないからこそ、どこまでも続く金色の草原の中を、まるで死後の世界にでも迷い込んだかのように何も考えずに歩けたりもする。
キキは馬車の外が好きで、よく歩く。すると周りはそれにつられて「私も」と歩きたくなる。
ある意味では、目的地など必要ないな、とゆなは思う。
珍しい花を見つけて、それをスケッチして、世界に何種類あるのか神様に報告する仕事がしたいな、とななは思う。
アミンにいたっては、目をつむりながらずっと歩いていることもある。自然の中を歩くことが、彼にとっては夜の睡眠と同じような感覚に思うこともあるようである。転んだっていいのだ。器用だからあまり転ばないが、転んだって大地とハグするようなものだからそれでいいと思っている。その地面がどんな地形であれ。
森によって匂いが違うらしく、草原によって匂いが違うらしい。彼は「世界を見たい」と願ったが、知らない街や文化を色々見たいだけでなく、土地によって森や草の香りが違うことを、感じとりたいのだった。仮に、世界のどこにも町も人もいないとしても、アミンにとって旅することは面白いようであった。
キャンプによって夜をしのぐことも多い。
馬車を手に入れたことで、3人までは馬車の中で眠ることが可能ではある。
が、キキは時々、外の地面の上で眠ろうとする。なぜなのか問うと、「体を鍛えるためだ」と答える。これ以上鍛える必要もないのではないかと問うと、「じゃぁ鈍(なま)らないためにだ」と答える。
地面の上に眠ることに何の意味があるのだろう?
キ「うーん。あなたたちの国の『畳』って床、あるでしょう?子供の頃は、畳の上で何時間もお昼寝できたんじゃない?でも大人になると、畳では体が痛くて眠れなくなるんじゃない?それは体の筋力が弱るからなのよ。そういう弱体化を防ぐためには、ふかふかの布団ばかりじゃなくて硬い床で寝たほうがいいの」
キキは女王だが、原始的な環境にすこぶる強い。「肉体や神経を鍛える(保つ)ために、体を過保護にしないほうが良い」ことをよくわかっているのだった。キキは、川の水を飲む。川の水で腹を下さないでいるために、川の水を飲む。そしてキキは女王でありながら、スラム街のような衛生観念の悪い場所に動じない。
強さとは何だろう?ただ魔法や戦闘能力が高いだけでは、強くあれない。特にサバイバルの場においては。
多くの場合、敵との戦いとは、四角いコートの上で行われるわけではないのである。