エピソード128『世界樹 -妖精さんを仲間にするには?-』
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- 2024年5月2日
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エピソード128
4時間ほど走っただろうか。
追っ手がないことを確信すると、アミンは馬車の手綱を緩めた。
改めて遠い空を望めば、夜が明けはじめている。
キラキラと瞬く無数の星をまだ残しながらも、空は老練な画家にしか出せないような絶妙なグラデーションを描きはじめていた。
どこまでも広い空は、どこまでも美しい。
どれだけの画家とどれだけの絵具を総動員すれば、このような壮大な壮麗な芸術が描けるのだろうか?時々、人間の所作などこの世界の前にちっぽけすぎて虚しくもなる。
でも競うべきではないのだ。
どんな大きな宮殿にも収まりきらないこの壮大なパノラマ画をこの目で鑑賞させてもらって、人は感動し、感慨し、それを明日の何かに活かせばいい。
ア「はぁ、なんか疲れたよ」
アミンは珍しく、疲れを口にした。
「おや?」と一行は思ったが、考えてみれば、天使の里に引き返した件からあまり眠ってもいないのだ。その間に大きな事件で2つも戦闘を繰り返し、体も心も疲弊して不思議はない。その間アミンは、町人との会話を率先し、馬車の手綱さえも握り続けてきたのだ。
3人も疲れていた。アミンがさらに疲れているのは想像に難くなかった。
先を急ぐ旅ではないので、空が明るくなってからは努めてゆっくり進んだ。
極力難しいことは考えず、いつかのように土の匂いや草の香りを愛でながら歩いた。花を摘み、頭に飾り、馬車の幌や馬にまで飾り付ける。
大きな花畑を見つけると、それを聴衆に見立てて3人はクルクルと踊った。わざわざプリンセスドレスにも着替えて。それはまるで自分が蝶にでも転生したような、気持ちの良い体験だった。
躍り疲れたらそのまま花畑の中で昼寝する。夢の中まで良い香りに包まれる。
花の彩りは美しい。改めて思う。
川に飛び込み、服を洗い、清らかな水で体中を満たす。
「草を食べたい」とアミンは言った。
それは「自然と一体になりたい」という意味なのか「ビタミンを補給したい」という意味なのか何なのか、誰にもわからなかった。
当初そのつぶやきを聞いて3人は笑ったが、しかし咄嗟の気まぐれでもないような気がした。
ゆなははっと思いついた。野草の知恵に長けるわけではないが、昔祖母の導きで、野草を食べたことがあった。天ぷらにして食べれば、大抵の野草は苦味が抜けて美味しく食べられるのだ。天ぷらというのはエンドールの郷土料理だったが、小麦粉と油があれば道中でさえ再現が可能だった。味付けも塩で充分だ。小麦粉の衣のおかげで、案外腹も膨れる。野草の天ぷらを、アミンは大層喜んだ。
そう。世界とは、町のことばかりではない。もの言わぬ自然と戯れながらさすらうことを、忘れてはいけない。
それを忘れているとき、人は心を失くしているのだろう。科学が何も発明しなくても、医者が一人もいなくても、心の健康を計るバロメータは昔から世界にある。