エピソード13
アミンを加えた一行は、ワフルの里から北へと歩き出した。
何のあてもなく歩いていた昨日よりも、ずっと心が安らいでいる。「どうにかなる」という見込みがあると、自分が裸同然でもこんなにも心が落ち着くものなのだなと、3人は痛感していた。
ハ「アミン、お前はカルベローナに抜ける道を知ってるんだろ?」
ア「え?知らないよ。僕はワフルを出たことがあんまりないもの」
ハ「えー!!てっきりお前が道案内してくれるものかと思ったぞ!そのために連れてきたんだ!」
ななとゆなも青ざめた。
ア「知らないよ。だからおまえたちと一緒に迷うことになる。
でも大丈夫だよ。この辺には僕らの里みたいのが幾つもある。そういうのを見つけて方角を聞いていけば、そのうち山を抜けられるはずさ」
な「良かったぁー!
時間かかっても、アミンのおかげで焚き火できるから、なんとかなりそうだしねぇ」
ゆ「妖精の里で道を聞くにも、アミンがいなかったら門前払いの連続だったはずだわ!
結局私たち、アミンにおんぶにだっこの日々が続きそうよ!」
ア「えへへ。僕が人の役に立てるなんて、思ってもみなかったよ!」
4人が話しながら歩いていると、茂みから魔物が襲いかかってきた!
昨日の野犬によく似たデスジャッカルだ!
な「ひぃぃぃ!腐った犬だぁぁ!!」
ななとゆなはおののいたが、意外にもハヤトがしゃしゃり出た!
ハ「フっ!密かに待ち焦がれていたぜ!昨日の恨みを晴らしてやる!!」
キザに言い放つと、ご自慢の《はやぶさの剣(偽)》を無駄にカッコよく構え、デスジャッカルに襲い掛かった!
ピシっ!
デスジャッカルに1のダメージ!
ハ「なにぃぃぃ!?オレ様の《はやぶさの剣(偽)》が効かんだとぉ!?」
少しは効いているようだが、魔物はまったくひるんでいない!
ハヤトはそれでもう闘志を失ってしまった!
デスジャッカルはハヤトに反撃に出た!
ハ「ひぃぃぃ!!」
ゆ「危ない!!」
すると!
ア「《メラ》!」
アミンは自慢の火球をデスジャッカルに放った!
デスジャッカルは13のダメージ!
パキーン!デスジャッカルは砕け散った!
ハ「や、やっつけたのか!?」
ア「やっつけたよ。ほら、小さい宝石が転がっただろ」
な「すごぉぉーー!!」ななはひいきのチームが優秀したときのサッカーファンのように、飛び上がって喜んだ!
ゆ「すごいわ。魔法って本当にあるのね!」
ア「えへへ。こんなのは大した魔法じゃないよ」アミンははにかんだ。
ハ「そう・・・。大した魔法じゃない。
《メラ》なんてレベル1でも使えるへっぽこ魔法だ」
ゆ「もう!まだ文句言うの!」
ハ「いや!
《メラ》ごときで倒せる魔物に、オレはまったく歯が立たなかった・・・
武器の1つでも装備すれば違うと思ったのに・・・!!
ロープレの中じゃ、《ひのきのぼう》を装備した非力な魔法使いだって、初期の敵に3ポイントくらいはダメージを与えられるぜ?それが、オレの攻撃はほとんど無意味だなんて・・・」
ハヤトはわなわなと震えた。愕然としたらしかった。
ア「運動能力が無さすぎるんだよ。
でも、武器を細身剣にしたのは良いセンスしてる」
ハ「え!?」
ア「棒切れを武器の素材にしようと思ったとき、突き刺し型の針状の武器にしたのは正解だと思う。
剣のように斬りつけるのは、木では無理さ。でも「突き刺し」は木でも結構できる。
突き刺す構えで向かっていけば、体の柔らかい魔物ならひるんだりもすると思う」
ハ「アミン・・・!」
ア「ただ・・・
『恨み』の動機で立ち向かっていくのは、もう辞めたほうがいいよ。
恨みの気持ちで戦うなら、おまえはずっと復讐を連鎖し続ける。
戦いってのはあくまで、身を守るためだけにやるんだ」
ゆ「アミン・・・!あなた、どれだけ賢いの・・・!?」ゆなも驚いている。
な「アミン、何歳??」
ア「僕?10歳だよ。えへへ」
な・ゆ・ハ「じゅっさい!!??」
ハ「マジかよ!おまえ小学4年生なのかよ!?」ハヤトは17歳である。
ア「うん。生まれてから10年とちょっとさ」
ゆ「それでそんなに頭が良いの・・・!?」
ア「別に、普通さ。ドワーフはみんなこんなもんだよ。
僕らが頭が良いっていうか、人間はあまり頭が良くないらしいね。どうやら」
な「そうなの??」
ア「人間は学校で色んなことを頭に詰め込むけど、でも生活に活かせていないみたい。
暗記力が高いだけで、思考力がないんだ。暗記ばっかりがんばって、思考してない。
生活の仕方によっては、別に人間だって10歳でも僕みたいな思考になるよ」
な「わたし、ドワーフの3歳レベルかも・・・(汗)」
ア「そしておまえたちの国は、人間の中でもちょっと知性が低いかも。
科学に頼りすぎているんだ。便利なものがいっぱいあって、オモチャがいっぱいあるだろ?
他の国はもう少し、自分で考えて色々やってるよ」
ゆ「そうなんだ・・・!」
ゆなは、なんとなく自分の国の民が幼いような気がしていた。それがとても腑に落ちたような気がした。
ア「さぁ、呑気にしゃべってる場合じゃないよ。日が暮れちゃう」
アミンは3人を促して歩き始めた。
な「アミンは、里の外に出たことはあんまりないんでしょ?」
ア「あんまりないよ。大人に連れられて里の近くに出ることはあるけどね。
だから魔物に出会って、戦ったこともある」
な「親がいてくれれば安心だね」
ア「そうじゃないよ。5歳にもなったら、自分で魔物を倒すように教育される」
な・ゆ・ハ「えぇー!!??」
ア「だって、森の中で大人とはぐれたらどうする?
自分一人でも身を守れなくちゃいけないだろ。
デスジャッカルくらいは自分でも倒せるように、ドワーフの子は教育を受けるよ」
ハ「逆に言えば、5歳で《メラ》を覚えていまだにその強さなのか?」
ア「そうさ。『弱いな』って言いたいんだろ?いいんだ別に」
ハ「何がいいんだ」
ア「僕らの里の周りは、それくらいの戦闘能力で充分だからさ。
僕らはあくまで、身を守るために戦闘能力を身に付ける。攻撃魔法に酔いしれたりもしない。
ワフルの周りの魔物は弱いから、こんな戦闘力で充分さ。
でも大人は違うよ。何かの事情でワフルから遠出する人もいる。その目的に合わせて、もっと修行したりもする。
戦うことに興味のない者たちは、自分の町に必要な強さだけ身に付ける。そういうもんだよ」
な「ふぅーん。強いけど、戦うことに興味がないのね」
ア「無駄な戦いに意味はない」
ハ「でもお前、大人でもないのに里を離れて遠くに行くのか?」
ア「それは・・・!
僕は、悪い子さ。悪い子でいいんだ」
しかし、住んでいる町を離れたい気持ちは、3人とて同じなのだった。