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エピソード42『世界樹 -妖精さんを仲間にするには?-』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2024年5月2日
  • 読了時間: 4分

エピソード42


1日2日で通り抜ける街ではないと悟り、長期滞在に向いた安めの宿を探した。

キキはボロい宿でもまったく文句を言わなかった。

「この部屋、わたしのベッドよりも小さいわ!」と言ったが「文句」を言っているわけではない。

「色々体験してきたわよ」とキキは遠い目をして言った。

そして彼らはノマドさながら、見知らぬ街で賃金労働を試みるのだった。


ななは目論見通り、ケーキ屋さんで働いてみることにした。

カウンターに出て接客をしろと言われたが、「ケーキを作りたい」と自己主張した。

そうだ。そう言えば7歳くらいの頃には「ケーキ屋さんになりたい」と騒いでいた記憶がある。思いがけず旅の中で、見知らぬ国で、ななはそれを体験することが出来たのだった。

スイーツに囲まれるのも、ケーキを自ら作るのも楽しかったが、楽しくない面もあった。

大都市の大きなスイーツ屋だ。大量生産を強いられる。ななは大勢いる流れ作業の一員で、スポンジケーキの周りに生クリームを塗り続ける作業を、何個も何個も延々とやらされるのだった。

な「うーん。おうちで作るほうが楽しいような?」

パティシエ業界の実情を、端的に痛感するのだった。


ゆなは花屋で働くことにした。

ゆなは以前の看護師勤務によって少々の社会不信があったので、大勢の人と交わる仕事は嫌だなと思った。花屋には接客もあるが、花と触れ合う側面も大きいはずだ、と読んだ。

カラフルなものでにぎわうオラクルベリーだが、意外と花屋に客は少なかった。

忙殺されずに済んだのはホッとした面もあるが、逆に暇すぎて物足りない。

暇を持て余したゆなは、廃棄処分の花を色とりどりに組み合わせて、可愛いブーケを作ってみた。「ブーケ」という概念はオラクルベリーにはなく、店主もふらっと寄った客もたいそう驚いた!

おかげでゆなは、それからは忙しくててんてこまいとなるのだった・・・。

しかし、どんな世界に行こうが何かに没頭していたい、人助けに夢中になりたい、そう実感するゆなであった。


アミンは鍛冶屋を探した。

工作は以前からたしなんでいたわけだが、「鉄を打ちたい」と思ったのだ。

鉄というものはアミンの里ではほとんど見ることがなく、もちろん打ったことはない。

アミンは色々なことを考えてこのアルバイトを選んだ。

打撃職は体を鍛えないと戦力がアップできない。しかし魔物はあまり出ないし、しばらくは街の中で暮らすことに決まった。ならばバイトをしながら体を鍛えたいと思ったのだ。

そして、仕事が終わったあと、鍛冶道具を借りて宿に戻ってきた。

自分用にも鉄を打つつもりなのだ。急がず焦らず、毎日毎日鉄をとことん打ち続けて、カチンコチンの武器は作れないだろうかと企んだ。

アミンも、キキに出会って価値観を揺さぶられた一人だった。それまでは「この旅で一人前の男になりたい」と思っていたが、キキを見たことで「何か限界を超えてみたい」「これまでにないものを実現したい」と果てない夢を抱くようになった。それが何であるかはわからない。だがそれでいい。


キキはアルバイトの言い出しっぺだが、何の仕事にしようか大いに悩んだ。

自分が露店の売り子などやると人だかりを作ってしまうことを、彼女は自覚していた。それは楽しいが、避けなければなるまい。かといって10歳の少女にしか見えない彼女に、あてがってもらえる仕事は限られている。

街をうろついて見つけたのは、劇場の「もぎり」であった。受付のチケット売りである。

もぎりは、この街では通常、現役を退いた後の老人たちが担う仕事であったが、つまり簡単な仕事ゆえ、10歳に見えるキキでも採用をこぎつけた。彼女は巧みに、いつもよりもおりこうさんを演じた。

そして、芝居を観覧しながら仕事をした。この国の文化や歴史、流行など知る勉強にもなった。


しかしキキは、この仕事を選んだこと、遡って、この姿を選んで街に入ったことを、少し後悔もした。

劇場のもぎりの仕事は、年齢のせいもあってか、あまり長時間は働かせてもらえなかった。

また、もぎりの仕事を下に見るわけではないが、もう少し社会の役に立っている実感の強い仕事に熱中したい、と思ったのだ。しかし今さら姿を変えるわけにもいかない。悔やみ続けるわけにもいかない。

するとキキは、時々おべんとうを作って仲間たちに持たせた。時には前の晩から(甘さ控えめの)チーズケーキを焼いたりもした。

3人は偉く感動し、偉く驚いた。「女王様からお弁当を持たせてもらう庶民がいるか!?」

「そんなこと恐れ多い!」とゆなは特に戸惑ったが、「大したことじゃないわ♪」とキキはあっけらかんに笑うのだった。


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