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エピソード57『世界樹 -妖精さんを仲間にするには?-』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2024年5月2日
  • 読了時間: 4分

更新日:2024年6月30日

エピソード57


街に戻って王立研究所なるものを尋ねてみると、わずかな量の鱗粉でも思いがけないほどの報酬を貰えた。

なんだかよくわからないな、と一行は思った。


まだ体力はあったので町歩きで暇つぶしするのも良かったが、一行は奇妙な服装であるだけでなく奇妙な香りをぷんぷん漂わせているゆえ、ますます町人に奇異の目で見られた。

今日は宿に帰ろう。宿の部屋でのんびり過ごせばいいや。

シャワーを浴びると、部屋のベッドなどに寝転がってゆうゆうとくつろいだ。

な「ねぇ、キキちゃんは遊びの天才!」

キ「それ褒めてるの??」

な「褒めてるよぉー♡」

キ「あそう、良かった♡」

ゆ「でもホント、TPOというかなんというか、切り替えが上手いわよね。器用だなーって思う。

 私どうしても、『のんびり過ごせばいいわよ』って言われても、どこか罪悪感というか落ち着かないというか・・・」

キ「ゆなはちょっと真面目すぎるかもね!それくらい真面目に成長していいんだけど、その後でふっとチカラを抜くというか、もう少し下方調整してもイイ気がするわ」

な「たまには遊びたいよぉ」

ゆ「あなたはしょっちゅう遊んでるじゃない!」

な「まぁそうかもだけどぉ(汗)」

キ「でも遊ぶって大事なのよ♪

 罪悪感を抱くことじゃないわ。

 大切なのは節度だし、ダメージを負わないことよ」

な「ダメージ?」

キ「そう。

 なるべく人に迷惑かけないようにその遊びをするには?

 なるべく危険にさらされないようにその遊びをするには?

 って、無邪気ながらもよく考えて遊べばいいのよ♪

 そして、年齢によってもしたい遊びも変わってくる。

 10歳の少女の頃と、20歳の思春期の頃とじゃ、したい遊びも変わってくるでしょ。

 どの遊びにせよ、『誰とどうやって遊んだら安全かな』って気を付けたらいいのよ♪」



一行は、ギュイオンヌでの世直しはもうこれでいいや、と思った。

どうせ街の中を歩いていても、煙たい目をされることが多いのだ。

旅立ちの際、「もう少し服装の自由がある街はないか?」と宿の店主に聞いてみた。

宿「私の生まれ故郷なら、もっと自由ですよ」と彼は答えた。

ア「それはどこにあるの?」

宿「東の、南です。海沿いの村ですよ。

 温暖な海の土地ですから、みんなローブなど着ずに暮らしています。

 のどかな陽気な民ですが、私は合わないから出てきた次第です」

な「海ぃ♪」ななは食いついた。

 ななたちのいたエンドールは、海があるにはあるがあまり美しい海はないのだった。

 他にも選択肢があるのだろうが、ななが行きたいならとりあず行くのもよいだろう。

ア「まさか、排他的な民だったりしないよね?」

それがいけないわけではないが、そろそろ世俗的な場所で何かを営みたい。

宿「まぁ大丈夫でしょう。都会の者たちが休暇にくつろぎに行ったりもしますからね」

ゆ「ビーチリゾート地?」それほどオシャレなものでもないであろうが。


行き先も定まった。よし、行こうか!と一行は動き出した。

が、一人、宿屋の入口から動かない者がいた。

ゆ「あれ?ベロニカどうしたの?」

ベロニカは、震える背中を向けながら言った。

ベ「僕は・・・。ここに留まることにする」

4人「え!?」

ベ「ここで、ギュイオンヌの大きな街で、新たな人生を挑戦してみるよ」

ア「ベロニカ!」

キ「仕事のアテは考えたの?」

ベ「マスター。世話なりついでにもう1つ聞いてくれ。

 僕に何か、仕事をあっせんしてくれないだろうか?」

宿「仕事を?あなた、ここに住むつもりなのですか?」

ベ「そうです。出来るかどうかは聞かないでくれ。

 それに挑戦してみようと思っている」

宿「あなたのお仕事は?」

ベ「僕は絵描きだが・・・

 絵にこだわるつもりはない。薪割りでも掃除でも、何でもやるよ」

キ「ベロニカぁ!」

ア「出来るのか?君に」

ベ「ひと月前だったら、まったく出来なかった。やろうとしなかったから。

 でも君らと旅をして、タフになったよ。

 それに、ミレーユの村で色々やった。薪も割ったし掃除もした」

宿「力仕事だったら、すぐに何かしらあっせんできるでしょう。

 親戚や知人をあたってみますよ。1つくらい仕事の求めがあるはずです」

ベ「ありがとうございます!」

な「あはは。良かったねぇ」

ベ「君らにも、感謝を言わなければならない!

 そして、依頼の報酬を渡さなければならないね」

キ「あぁ、そういえば」

ベ「受け取ってくれ。僕の有り金全部だ」

ベロニカは、画家として稼いだ所持金の10万ゴールドほどを、すべてななたちに託した。

ゆ「全部はマズいわよ!何かのためにとっておかなくちゃ!」

ベ「いいんだ。退路を断ちたい。

 カネがあったら、誰かを雇って護衛を付けて、ミレーユの村に戻ったり他の街を目指したりしたくなってしまうかもしれない。それはダメだ。僕はここで、自分に挑まなければ」

宿「はっはっは。

 事情はよくわかりませんが、若い男の、人生の始まりですな」

宿屋の店主は、手で目元をぬぐった。


唐突の出会い、唐突の別れ。

旅とは感慨深いものだと、一行は思うのだった。


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