エピソード87『世界樹 -妖精さんを仲間にするには?-』
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- 2024年5月2日
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エピソード87
住所の場所に行ってみると、町のはずれの小さな、ハーブティの喫茶店であった。
ゆ「こんにちは。酒場の貼り紙を見ました」
お店を覗くと、隅の客用テーブルに一人の老婆が腰かけている。
婆「おやまぁ、隣町まで行ってくださるの?」
ゆ「えぇ、私たち、旅の者ですから」
婆「どうもありがとう!私はサチというの。遠い国の生まれよ」
な「わたしたちもエンドールから旅してきたんですよ!」
サ「まぁ!私の行ったことのない国!楽しそうでうらやましいわ。
それでね、近年は私、リウマチに悩まされていてねぇ。
時々体が思うように動かないのよ。
この町の道具屋さんには《まんげつ草》がないのだけど、どこかで買ってきてくださらない?」
ゆ「リウマチか。大変ですね。
暖かくされてください。お仕事も家事も無理はしないで!ストレスも病気に障ります」
サ「あら、どうもありがとう!
それで、恥ずかしいことに・・・立派なお礼ができないの。近頃は貧しいものでね」
ゆ「良いんです♪
お礼は気にしてないの。貼り紙が1週間も放置されていたようだったから」
サ「まぁ、とっても優しい人なのね!!私、感動してしまうわ!!
ねぇ、あなた方が戻ってくるまでに、くるみのケーキを焼いて待っていてもよろしくて?」
ゆ「もちろんです!どうもありがとう♪」
近くに町はあるのだろうか?聞き込みをすると、どうも最寄りは先日のグレイス城であるようだった。
依頼ついでに新しい町を見たい、という好奇心もあったが、一刻も早く解決することを優先した。
一行は馬車をグレイス城に引き返し、そこで《まんげつ草》を幾らか買った。
ついでに酒場に寄り道をしてみると、例の『プチアーノンを捕まえてきて』という依頼書には
『依頼人:変なおじいさん
住所:暗くてジメジメしたところ
報酬:つまらないものしかあげられません』
と記されていた。
4人「やっぱり・・・!(笑)」
お遣いのついでにちょっとした心残りを解消し、一行はミントスの町に戻った。
そのまますぐにサチの喫茶店へと向かう。
すると、店内からはシクシク、グシュンとすすり泣く声が聞こえる。
ゆ「どうしましたお婆さま!」4人は慌てて駆け寄る。
サ「あらあらおかえりなさい!
あのね、もう1つ依頼があるの!わたしにハンカチを持ってきてくださる?
涙を拭くハンカチが、いくらあっても足りないわ!」
ゆ「一体どうなさったのです?」
な「病気が重いの??」
サ「いいえ、エンドールのお姫様が、あまりにも高貴だから感動しているんです」
ゆ「え??」
サ「いいのよ!隠さなくてもわかるの。
町の人たちが噂していたわ。最近この町にどこかのお姫さまが旅して来てるってね。
ゆなさん、あなたのことなのでしょう?」
ゆ「いえ、私は!」
サ「いいのよお忍びでしょうからね!
そのお上品な振る舞い、美しい顔立ち、類稀な慈愛・・・お姫様に決まっています。
しかもまったく欲がないのですから・・・!!まるで聖母です!!
私、そんなお方にお慈悲を掛けていただいて、もういつ死んだって後悔はないわ!」
キ「うふふふ。くれぐれもナイショにしてくださいね♡」
ゆ「もう!キキちゃん!!」
サ「もちろんよ、大丈夫。
さぁさぁ、庶民のケーキなんてお口に合うかわかりませんが、よろしかったらくるみのケーキを、食べていってくださいな♪」
これ以上は「違う」と説得しても、無駄であるようだった・・・。
一行はケーキを頂きながら、楽しく会食をした。
サチは北の寒い国の出身であるらしかった。様々な国を見ながら、この町にやってきた。
互いの旅の記憶を交換しながら、会食はとても楽しく充実するのだった。
な「そういえば、《まんげつ草》ちゃんと持ってきたよ?」
サ「まぁまぁそうでした!
なんだかもう、《まんげつ草》なんてどうでもいい気分になってしまっていたわ」
一行は買ってきた薬草をサチに手渡した。
サ「いえね、私のハーブの先生は、リウマチにはボスウェリアセラータが効くって言ってたんです。
それを信じて、喫茶店のお客さんにもそのハーブを出していたんだけど・・・私自身のリウマチがどうも、ボスウェリアでは治らなくてね・・・」
ゆ「代替医療にも、色々なことがありますね。
それが効いた人も、いたんではないかと思いますよ」
サ「ありがとう。あなたはみんなをかばうのね。
あぁそうそう、最後にもう1つ、お願いがあるの。
酒場の貼り紙を、はがしておいてもらえるかしら?この足では酒場も遠くって」
ア「おやすい御用さ」
サ「また来てね!私は何にも要らないの。旅のお土産話を持ってきてちょうだい!」
「何かあったときに、ここに帰ってこれるのではないだろうか」そのように思える場所が、1つ、また1つ増えていくのだった。